市川市は人工干潟計画をやめよ
─三番瀬保護団体が現地でアピール─
三番瀬は東京湾奥部に残った貴重な干潟・浅瀬である。市川市は、「市民が海に親しめるようにするために人工干潟をつくる」を掲げ、航路に堆積した真っ黒いヘドロを三番瀬の一部に投入している。三番瀬保護団体は5月31日、市川市の人工干潟造成計画中止を求めるアピール活動を現地でおこなった。雨の中、30人が参加した。

*「海を埋める時代は終わった」
市川市は航路に堆積した汚染土砂(ヘドロ)を三番瀬の一部に投入した。予定地は市川市塩浜2丁目の護岸前だ。「市民が海に親しめるようにするため、人工干潟をつくる」がキャッチフレーズである。
田中甲市川市長は5月27日の記者会見で、江戸川放水路河口干潟の整備・活用を表明した。これは三番瀬保護団体の要望を受け入れたものだ。しかし、塩浜2丁目護岸前での人工干潟造成は予定どおりに進めるとしている。そのための事前覆砂を6月から強行した。

三番瀬保護団体は現地でアピール活動をした。参加者は、人工海浜「幕張の浜」が浸食で惨たる状況になっている事例をあげ、こう訴えた。
「幕張の浜は千葉県が45億8000億円もかけて砂を補給しつづけたが、浸食が止まらない。県はとうとう砂補給を中止し、海水浴や水遊びを禁止した。ここの人工干潟も浸食される可能性が高い」
「鳥獣保護管理法は人工干潟造成を埋め立てとみなしている。海を埋める時代は終わった」

*航路に堆積したヘドロを投入
市川市は6月から7月にかけて事前覆砂をおこなった。航路(市川市塩浜1丁目地先の航路=澪)に堆積していた真っ黒いヘドロを人工干潟造成予定地の浅瀬に投入した。現地はものすごい悪臭だった。これは、三番瀬再生計画や、長年にわたる三番瀬再生事業を台無しにするものであり、暴挙である。
千葉県は1996年から3年間、約6億4000万円の費用をかけて「三番瀬補足調査」(市川二期地区・京葉港二期地区計画に係る補足調査)を実施した。その結果概要にはこんなことが書かれている。
《局所的な青潮については、海岸地形が複雑になっているため上記の航路や窪地のほかに、市川市地先の船通しの澪筋等が発生起源となっている可能性がある》(13ページ)
市川市が事前覆砂に用いた浚渫土は、市川市塩浜1丁目地先の航路(澪)に堆積していた土砂である。この航路に堆積している土砂は貧酸素水塊や硫化水素を含んでいて、そこも青潮の発生源になっている可能性があるということを「三番瀬補足調査」は指摘している。
*航路は青潮の発生源
青潮は三番瀬の自然や漁業に甚大な被害をおよぼしている。青潮発生のしくみについてはこう説明されている。
《海底の深いところ(航路や窪地)に酸素が少ない水域(貧酸素水域)ができ、硫化物イオンや硫化水素が発生。それが表面に移動する際に海が青くなる」》(船橋市環境保全課水質・地質係「きれいな川と海を目指して」)
このように航路に堆積した貧酸素水塊を浚渫して三番瀬の浅瀬に投入することは、三番瀬の保全再生に逆行する。
*漁業にも大きな影響
東京湾の青潮は、湾奥中央域や浚渫窪地、航路で発生した硫化物を含む無酸素化した底層水の湧昇によって発生する。このことは、千葉県水産総合研究センターの研究報告でも明らかにされている。
《東京湾では、赤潮の発生が1907年以降に確認されており、1940年代前半までの発生回数は年間2回以下程度であったが、1950年代以降に大きく増加した。この赤潮の増加に伴い、内湾北部では貧酸素水塊の発生が見られるようになった。貧酸素水塊は毎年4、5月頃に発生し、8月から9月に最大規模を示した後11、12月に消滅する。この経過の中で、北東を中心とする離岸風の連吹があると、湾奥から北東部沿岸に貧酸素水塊が湧昇し青潮が発生する。この青潮の発生機構については多くの報告が見られ、丸茂・横田(2012)が既往知見の整理を行っており、風呂田(1987)は、湾奥中央域や浚渫窪地及び航路で発生した硫化物を含む無酸素化した底層水の湧昇により青潮が発生することを示し、佐々木(1997、2007)は、大規模な青潮の場合には湾奥の平場(内湾北部沖合の海底が平たんな場所)起源の水塊の影響が大きいことを明らかにしている。》
(梶山誠「東京湾における青潮の発生と漁業被害の状況」、『千葉県水産総合研究センター研究報告』2019年3月)
このように、航路に堆積した貧酸素水塊は青潮の発生源となっている。そのような貧酸素水塊を三番瀬の浅瀬に投入することは三番瀬の漁業にも大きな影響をおよぼす。
*三番瀬の保全再生に逆行
市川市は、2027(令和9)年度から2028(令和10)年度にかけて干潟の整備工事を実施するとしている。しかし、市川市塩浜1丁目地先の航路の浚渫は2025年度で終了する。そのため、2027~2028年度の干潟整備はどこから土砂をもってくるか決まっていない。
千葉県三番瀬再生計画(基本計画)は再生の目標として次の5点を掲げている。
①生物多様性の回復
②海と陸との連続性の回復
③環境の持続性及び回復力の確保
④漁場の生産力の回復
⑤人と自然とのふれあいの確保
航路に堆積した貧酸素水塊を三番瀬の浅瀬に投入することはこうした三番瀬再生に逆行する。三番瀬再生計画を推進している県は、市川市の人工干潟造成計画をやめさせるべきである。
三番瀬保護団体は8月19日、人工干潟計画を直ちに中止するよう求める要望書を市川市長あてに提出し、担当部署の行徳支所と交渉する。
8月29日は、三番瀬再生計画を主管する千葉県の環境政策課や水産局などと交渉し、人工干潟造成計画をやめさせるよう求める。
9月23日は、人工砂浜の「幕張の浜」を見学する。千葉県が手がけた「幕張の浜」は、前述のように浸食で惨たる状況になっている。
10月25日は、人工干潟計画の中止を求めるこれまでの活動を報告し、今後のとりくみについて意見を交換する。