再生可能エネルギーをめぐる不都合な現実
─過大な期待は禁物─
再生可能エネルギー(再エネ。自然エネルギー)を礼賛する論調が相変わらず幅をきかせている。「自然エネルギーは唯一の持続可能なエネルギー」「政府は再エネ100%をめざすべき」などだ。だが再エネは問題だらけである。再エネは不都合な真実で満ちている。
(文・写真/中山敏則)
◆日本の再エネは太陽光に偏重

日本の再エネは太陽光に偏っている(図1)。理由はこうだ。
①最大の要因は2012年に導入された固定価格買い取り(FIT)制度である。制度がスタートした2012年、事業用の太陽光の買い取り価格は1kWhあたり40円だった。出力制御(後述)で使われなくても、太陽光発電は20年間決まった高値で買い取ってもらえる。事業者が太陽光に殺到したのはこのためだ。
事業者の参入を促すことが最優先されたため、規制は後回しになった。事業者に対する行政のチェックや監視はまったく不十分である。パネル設置は地元協議の対象にならない。
1kWhあたり40円は国際平均価格の倍以上である。こんなおいしい話はない。見込みレベルで認可が下りるから、用地取得はあとからでよい。
そのため、発電ではなく投資を目的としてたくさんの企業がメガソーラー(大規模太陽光発電所)の事業に参入した。売電収入が20年間保証される「金融商品」としても人気を呼び、市場では「太陽光バブル」という言葉が飛び交った。
②固定価格買い取り制度によって単価が保証される。したがって設備が大きいほど利益を上げやすい。メガソーラーの建設が全国各地で進んだのはそのためだ。
太陽光発電は設置や管理が簡単なため、まとまった土地があれば効率よく事業をおこなうことができる。だがエネルギーの消費地である大都市部では、遊休地であっても地価の高さがネックとなる。必然的に中山間地域の山林や耕作放棄地がメガソーラー建設の対象となる。土地を安く取得できるからだ。その結果、メガソーラーによる自然破壊が全国各地で問題になっている。
放置された工業団地の用地などを活用するならまだしも、自然豊かな森林や湿原を破壊して建設するのは本末転倒である。
◆再エネの多くは捨てられている
太陽光発電や風力発電は、どれだけ設備を増やしても、太陽が照らず、風が吹かなければ発電できない。反対に天気が良ければ、膨大な数のパネルや風車が一斉に発電するので、需要を大幅に上回る。そのため、使い切れずに捨てられている。出力制御(出力抑制)である(図2)。

こんなものは本来なら商売にはならない。だが再エネに限っては、発電した分を全量、20年間も破格の値段で買い取ってもらえるしくみになっている。その原資は国民が負担する。
出力制御は、電力が余ったさいに、太陽光や風力といった再エネ発電設備の電力系統への接続を電力会社が制限する制度である。電力は需要と供給を常に一致させなければ周波数が不安定になる。供給が需要を上回ると一定の周波数を保てなくなり、大規模停電が発生する。2018年以降、再エネ発電の出力制御が必要になるケースが増えている。2023年度は18.8億kWhに急増した(図3)

捨てられる電力は今後さらに増える。経産省などの試算によると、2030年ごろには、再エネによる発電は最大で北海道は49.3%、東北は41.6%、九州は34%が捨てられる恐れがあるという(『日本経済新聞』2022年9月13日)。
◆「自然エネルギー100%大学」は大ウソ
千葉商科大学などの「再エネ100パーセント大学」は大ウソである。

太陽光は天気のいい昼間しか利用できない。したがって、千葉商科大学も、夜や雨の日は火力発電を利用している。ところが、それがわからない知識人や市民活動家などが多すぎる。
太陽光は夜や雨の日は発電できない──。それは中学生でもわかることだ。ところが、マスメディアも「再エネ100パーセント大学」を絶賛している。グルになって国民をだましている。大学がフェイクニュース(偽情報)を堂々と発信する。その拡散にマスメディアが加担する。これは驚くべきことである。
『長周新聞』は記した。
《太陽光発電で再エネ100%を実現した大学(千葉商科大学など)があるというので、それはいいな、晴れの日の午前10時から午後3時くらいしか講義がないのか? と思ったら、そうではなくて、普通の電気を普通に使っていて(つまりほとんどが火力発電の電気)、屋根や空き地に並べてある太陽光パネルの発電量と差し引きするとほぼ相殺できるというだけのことだった。太陽光と風力で再エネ100%の工場、企業というのも同じで、晴れの日の昼間か風の強い時間帯しか仕事をしないのか? と思ったら、やはり、主に火力発電の電気を使っていて、売電量と消費量でトントンというだけのことだった。つまり、相殺して再エネだけを使ったことにする数字のトリックにすぎない。お天気次第の電気だけで再エネ100%は無理だ。》(『長周新聞』2021年4月8日)
千葉商科大学が雨の日や夜間に東京電力から火力発電を調達していることは、同大学が発表している資料でも明らかになっている。
大容量の蓄電池は実用化されていない。そのため、太陽光発電は夜間や雨の日はまったく役に立たない(図2)。適度な風が吹かなければ、風力発電も役に立たない。
◆家庭負担は拡大の一途
~再エネの消費者負担額は25兆円~
再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)は電気代に上乗せして徴収されている。その事実を知る国民は少ない。
家庭から徴収される再エネ賦課金は毎月の電気使用量明細書に記載されている。総額は2025年度までの累計で25兆円を超える。
再エネ賦課金は、ひと月にコーヒー1杯程度の負担で再エネ導入が進むとされていた。ところが買い取り価格の設定が非常に高かったため、太陽光発電設備の導入が爆発的に進んだ。その結果、再エネ賦課金は急激に増えつづけている。標準家庭(400kWh/月)の負担額は2025年度で年1万9104円に達する(図4)。

「コーヒー1杯程度」はウソだった。消費者をだますものだった。FITの認定を受けた再エネは国が20年も固定価格で電気を買い取るため、賦課金は今後も増えつづける。2050年までの累計額は69兆円に達すると見込まれている(『WEDGE』2018年12月号)。その負担は消費者(庶民)に重くのしかかってくる。
再エネ賦課金はメガソーラーや風力発電による自然破壊の資金源ともなっている。
再エネ賦課金は国民や大企業が平等に負担しているのではない。電気を大量に使う大企業などは賦課金の8割以上が減免されている。その分を一般家庭や、電気を大量には使わない中小零細企業が負担している。
《2013年度までで1916事業者、約3000事業所、約244億円分が免除された(経産省の育エネのHP)。鉄鋼、化学、金属加工、紡績、冷凍冷蔵工場などが多いが、ほとんどの農協、漁協、食品加工工場、鉄道、水道事業や下水処理などの公共事業も減免されている。その分は我々一般消費者が負担していることになる。》(武田恵世『自然エネルギーの罠』あっぷる出版社)
あまり電気を使わない人が電気をたくさん使う大企業などの分の金を出しているのだ。こんな理不尽な話があるだろうか。まさに再エネ搾取である。ところが、この問題は国会でもとりあげられない。マスメディアや消費者団体も問題にしない。再エネ過信に呪縛されているからだ。
◆エネルギーに関する提言
どうすればいいのか。こんなことに力を入れてほしい。
(1)環境を破壊しない再エネを増やす
一部の事業所は、敷地や屋上などに太陽光パネルを設置するなど再エネの導入を進めている。こうしたとりくみを拡大すべきである。
といっても、前述のように再エネへの過大な期待は禁物である。しかも、再エネは環境破壊や土砂災害などが全国各地で問題になっている。環境を破壊する再エネは推進すべきでない。
(2)多様な発電技術の活用
日本には最先端の発電技術がある。たとえば世界最高水準のガス・コンバインドサイクル発電である。ガスタービン発電と蒸気タービン発電を組み合わせた発電法だ。エネルギー効率が非常に高いという。じっさいに電力会社やガス業界が採用している。こうした技術の活用拡大が求められている。
(3)コージェネや自家発電の活用
産業界や自治体の一部はコージェネレーション(熱電併給)や自家発電の導入に力を入れている。2011年3月の「計画停電」で懲りたからだ。
産業界では、数多くの大企業が自家発電を導入している。日本製鉄、JFEスチール、トヨタ、日立製作所、出光興産、日本製紙、住友化学などである。その発電能力は、2011年時点で6000万kW(原発60基分)を超える。
たとえば製鉄所の発電能力はすごい。日本製鉄の君津製鉄所だけで115万kWと、原発1基分に相当する発電能力をもっている。鉄鋼大手は製鉄所内で排出されるガスや熱を利用し、タービンを回して発電している。
2022年3月22日の「電力ひっ迫」では、製鉄所や化学工場などの自家発電が活躍した。日本製鉄の君津地区と鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の発電所は、電力を東電ホールディングスに緊急融通した。一般的な火力発電所の数基分に相当する電力を送ったという(「日経ビジネス」2022年3月23日)
ごみ焼却場の発電能力も大きい。たとえば千葉県内では、木更津市が、小中学校などの使用電力を廃棄物処理の余熱で発電する電力に切り替えた。船橋市も下水汚泥消化ガス発電事業を始めた。下水処理過程で発生する汚泥消化ガス(メタンガス)をバイオマス発電の燃料として活用するものだ。
(4)送電線の解放
製鉄所やごみ焼却場などが生みだす電力を幅広く活用するためには、法制度の改正や送電線の解放が必要である。
いまは送電線利用がネックとなっていて、製鉄所などが生みだす電力を一般家庭などに供給するのはむずかしい。電力会社が送電線を独占し、その使用料をかなり高値に設定しているからだ。表向きは自由化になっても、新規発電事業者の参入にいやがらせをしている。こんな指摘がある。
《電力会社が自家発電をフルに利用すれば電力不足は起こらない。この事実を国民に知られると、産業界からも一般消費者からも「送電線を民間企業に解放せよ!」という世論が生まれる。そして制度が改善されて、誰もが送電線を自由に使えるようになると、地域を独占してきた電力会社の収益源の牙城が崩れる。送電線の利権だけは、何としても電気事業連合会の総力をあげて死守する必要がある、と考えているのだ。9つの電力会社にとって、福島原発事故を起こした今となっては、原発の確保より、送電線の確保のほうが、独占企業としての存立を脅かすもっと重大な生命線である。したがって日本人は、「自然エネルギーを利用しろ」と主張する前に、「送電線をすべての日本人に解放せよ!」という声をあげることが、即時の原発廃絶のために、まず第一に起こすべき国民世論である。何しろ、送電線が解放されて、安価に送電できなければ、自家発電ばかりでなく、自然エネルギーの自由な活用もできないのだから。》(広瀬隆『新エネルギーが世界を変える』NHK出版)
送配電事業を電力会社から完全に分離し、すべての発電業者が電力市場に参入できるよう、電力の完全自由化をただちに実施することが緊急課題になっている。