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日本が直面するエネルギー問題と課題

~再エネへの過信は禁物~


政府は今年3月、東京電力と東北電力の管内に「電力需給ひっ迫警報」を初めて発令した。6月下旬は東京電力管内に「電力需給ひっ迫注意報」を発令した。ひっ迫回避で再生エネルギーはあまり役立だっていない。原発の再稼働推進と新増設を求める動きも強まっている。なにが課題となっているのか。 (編集部)

◆電力ひっ迫」の原因

これまでは、全国の原発がすべて停止している状態でも大規模な停電は発生しなかった。ところが今年3月22日、東京電力と東北電力の管内で「電力需給ひっ迫警報」が初めて発令された。なぜか。

東京電力は火力発電所だけで最大4200万kWの発電能力を保有している。それをすべて発電すれば電力不足にはならない。ところが電気は貯めることができない。余分に発電すると燃料代がムダになる。だから需要に合わせたギリギリの状態で発電している。

火力発電は天候に左右されず安定的に発電できる。だが老朽化で休廃止がすすんでいる。温暖化対策などで新増設計画は停滞気味だ。そういう状況のなかで稼働中の火力発電所が停止すると、ひっ迫警報がでる。

3月22日は、16日の福島県沖地震によって複数の火力発電所が停止した。そのため、ひっ迫警報が発令された。天候がよくなかったため、太陽光発電や風力発電は役に立たなかった。

6月下旬は、火力発電所の一部停止がつづいている状態で猛暑となった。6月としては記録的な暑さが連日つづいた。冷房使用によって電力需要が急増する。政府も電力会社もこんなに早く猛暑になるとは考えていない。備えができていなかったのだ。需要が供給量を超えそうになったため、東京電力管内に「電力需給ひっ迫注意報」が発令された。休止中の火力発電所を稼働させたことや節電によって停電は回避された。このときに効果を発揮した再生可能エネルギー(自然エネルギー)は太陽光発電だけだ。それも日差しが強かった昼間だけである(図1)。

最大の問題は、福島原発事故のあと、原発に依存しないエネルギー政策を政府が推進してこなかったことだ。相変わらず原発に固執するエネルギー政策をすすめてきた。そのツケがまわっている。

◆地震大国に原発はノー

「電力需給ひっ迫」に乗ずるかたちで「原発再稼働やむなし」がさけばれている。

しかし原発の危険性は福島原発事故で証明された。日本は地震大国である。大地震が発生したら、深刻な原発事故が発生する。原発再稼働推進はとんでもないことである。

◆再エネをめぐる問題

(1)高額の固定価格買取制度で太陽光発電が急増

固定価格買取制度(FIT)は再生エネルギーの導入を支援する制度だ。太陽光、風力、小型水力、地熱、バイオマスなどの再エネから発電された電気をコストより高く買い取ることになっている。とくに太陽光発電設備は買い取り価格の設定が高かったため、導入が爆発的にすすんだ。2020年度における太陽光発電の累計導入量はおよそ7100万kWと、この10年で20倍以上に増えた。

太陽光や風力などが発電する電気は、高値になるよう政府が決めた価格で電力会社が買い取る。その原資は再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)という名で電気料金に上乗せして国民から徴収する。これが法律で決められている。

原発では、かかったコストをそのまま電気料金に反映させる「総括原価方式」で原価をを計算し、それに電力会社の利益を上乗せして決まる。原発を保有する電力会社は、いくらコストがかかっても電気料金として徴収できるというこの方式によってボロもうけしてきた。同じことが再生エネルギーでもくりかえされている。

(2)国民負担の再エネ賦課金は年々増加

再エネ賦課金は国民から強制的に徴収している。太陽光発電や風力発電の費用を勝手に電気料金に上乗せしている。その事実を知らない国民も多い。

各家庭から徴収される再エネ賦課金の額は毎月の電気使用量明細書に記載されている。2021年度の再エネ賦課金、つまり消費者負担額の総額は2兆7000億円におよぶ。

標準家庭(300kWh/月)の負担額は2022年度で年1万2420円に達する(図2、表1)。この負担額は今後も増えつづける。

再エネ賦課金はメガソーラーや風力発電による自然破壊の資金源ともなっている。

(3)大企業は再エネ賦課金を8割以上減免

再エネ賦課金は国民などが平等に負担しているのではない。電気を大量に使う大企業は大幅に減免されている。

経団連は、企業が再エネ賦課金を負担することに反対した。政府はこれを受け入れ、平均値の8倍以上の電気を使う企業については賦課金の8割以上におよぶ減免を認めた。その分を一般家庭や、電気を大量には使わない中小零細企業が負担している。それによって風力・太陽光の事業者がもうかるしくみになっている。このため、再エネ賦課金は「大企業がもうかれば国民生活はどうなってもよいとするアベノミクスの再エネ版」とよばれている。

(4)太陽光と風力の弱点

太陽光発電や風力発電は安定性に乏しい。天候に左右されるからだ。太陽光は昼間しか発電できない。昼間も雨のときはダメだ。曇りのときは少ししか発電できない。風力発電は風が弱かったり強すぎたりしたら発電できない。これはちょっと考えればわかることだ。したがって太陽光や風力はベース電源や主力電源にならない。それは今年3月と6月の「電力ひっ迫」で証明された。

日本はヨーロッパとかなり違う。ヨーロッパは台風がめったに襲来しない。しかも陸つづきのヨーロッパ各国は送電線で結ばれ、電力を融通しあっている。非常時は近隣国の電力に頼ることができる。日本にはそのような広域的な電力システムがない。

「電力ひっ迫」に乗ずるかたちで原発再稼働推進を求める声も高まっている。

◆エネルギーに関する提言

どうすればいいのか。こんなことに力を入れてほしい。

(1)環境を破壊しない再エネを増やす

一部の企業や大学などは、敷地や屋上などに太陽光パネルを設置するなど再生エネルギーの導入をすすめている。こうしたとりくみを拡大すべきである。

といっても、前述のように再生エネルギーへの過大な期待は禁物である。しかも、再エネは環境破壊が全国各地で問題になっている。

(2)多様な発電技術の活用

日本には最先端の発電技術がある。たとえば世界最高水準のガス・コンバインドサイクル発電である。ガスタービン発電と蒸気タービン発電を組み合わせた発電法だ。エネルギー効率が非常に高いという。じっさいに電力会社やガス業界が採用している。こうした技術の活用拡大が求められている。

(3)コージェネや自家発電の活用

産業界や自治体の一部はコージェネレーション(熱電併給)や自家発電の導入に力を入れている。たとえば製鉄所の発電能力はすごい。日本製鉄の君津製鉄所だけで115万kWと、原発1基分に相当する発電量がある。しかしいまは法制度や送電線利用がネックとなっていて、製鉄所などが生みだす電力を一般家庭などに供給するのはむずかしい。

ごみ焼却場の発電能力も大きい。木更津市は今年2月、小中学校などの使用電力を廃棄物処理の余熱で発電する電力に切り替えた。同市にあるゴミ焼却場「かずさクリーンシステム」は、余熱を利用し、蒸気タービンで24時間発電している。年間発電量は、4人家族で約7000世帯分の年間消費電力に相当する。

船橋市も今年4月から下水汚泥消化ガス発電事業をはじめた。下水処理過程で発生する汚泥消化ガス(メタンガス)をバイオマス発電の燃料として活用するものだ。年間売電量は495万kWを見込んでいる。ガスの売却などで年に1億円の収益を想定する。発電された電力は市内の商業施設などで消費される。担当者は「市のエネルギー自給率の向上とエネルギーの地産地消に貢献できる」としている。

このような発電を広く活用するためには法制度の改正や送電線の開放が必要である。

(4)省エネの推進

日本は「世界一の自販機大国」といわれている。全国のあらゆるところに自動販売機が設置されている。2021年12月末現在の自販機設置台数は約400万台である。24時間稼働している自販機は、省エネ技術がすすんでいるとはいえ、今も電力消費量の多さが問題となっている。飲料自販機(225万台)の1台あたり年間電力消費量は700kWh~800kWhである。わずか1台で、家庭が使用する2か月から3か月分の電力を消費している。単純計算すると一般家庭の55万世帯分に相当する。これは長崎県の世帯数とほぼ同じである。自販機の設置を何らかのかたちで規制すべきだ。たとえばコンビニの近くに飲料自販機は必要ない。たばこ自販機も規制すべきである。

千葉県自然保護連合は自販機の削減を県などに求めた。その結果、JR千葉駅近くの歩道では、32台設置されていた飲料自販機が4台に減った(写真①)。

在来新幹線の何倍もの電力を必要とするリニア中央新幹線の建設も中止してほしい。

写真① JR千葉駅近くの歩道に設置されていた32台の飲料自販機(上)は4台に減った(下)

JAWAN通信 No.140 2022年8月10日発行から転載)