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  ふるさとの歴史・文化・自然を大切にする真の復興と蒲生干潟の自然環境保全を!

─仙台市に要望書を提出─

蒲生を守る会 熊谷佳二

図2-1

震災から10年を経た現在、蒲生は大きく姿を変えました。藩政時代に貞山運河で運んだ米や塩の集荷所として大いに栄えた町の歴史、文化、そして自然は、河川堤防工事や区画整理事業という大規模公共工事によって踏みにじられてしまいました。私たち蒲生を守る会は、「蒲生のまちづくりを考える会」と共同で仙台市に要望書を提出しました。ふるさとの歴史・文化・自然を大切にする真の復興と蒲生干潟の自然環境保全を求め、活動していきたいと思います。

写真2-1
蒲生干潟での観察=2018年7月29日、上村佐知子さん撮影


2020年10月16日

仙台市長 郡 和子 殿

蒲生北部地区の真の復興と蒲生干潟の自然環境の保全を求める要望書

現在、蒲生北部地区で急速に進められている被災市街地区画整理事業によって、町の姿は、大きな変貌を遂げています。当地区は、藩政時代に貞山運河で運んだ米や塩の集荷所として大いに栄えた歴史をもつ町であり、同時に、渡り鳥の楽園、蒲生干潟という豊かな自然を有する町でもあります。蒲生の町は消えようとしています。

災害危険区域に指定され、やむなく集団移転した元住民の方々や、自宅を修繕し町に残って住んでいる住民の方々は、ふるさとの再生を願いつつ不安を抱えながら暮らしています。毎年7月上旬には、日本一低い山である日和山の山開きが元住民と市民センターの協力で継続され、人々の心の拠り所となっています。また、地区内には、御舟入堀の船溜まり跡など、発掘調査でその歴史的価値が再認識されている場所もあります。

また、隣接する蒲生干潟は、国指定鳥獣保護区特別保護地区、及び宮城県自然環境保全地域に指定されている国内有数の渡り鳥の渡来地であり、生命の宝庫です。東日本大震災によって、一時はその存続を危ぶまれるほどの被害を受けましたが、干潟生態系は見事に復活しました。シギやチドリ、国指定天然記念物であるコクガンなど、貴重な水鳥の渡来数は徐々に回復しつつありますが、周辺の開発により、再びダメージを受け始めています。海、川、砂浜、干潟、そして周囲の後背地へと連なる自然環境の連続性が多様な生物を養っており、それらは仙台市が世界に誇れる自然であり、行政として、この自然を上手に活用しつつ、未来の子供たちへと末永く残し、伝えるという責務があると考えますが、有効な保全策は未だ、立てられておりません。

私たちは、震災後現在まで、時には単独、時には共同で、蒲生北部地区の復興のあり方についての要望書や陳情書を、仙台市に繰り返し提出してきました。このまま、当地区の歴史と自然に対する保全策なしに事業が進めば、この町の歴史や文化、自然環境が失われ、次世代への継承ができません。

仙台市長におかれましては、あらためて蒲生北部地区を訪問、視察いただき、住民や関連団体と懇談を行うことで、現状をしっかりと認識いただき、市民主体の真の復興を進めていただきたいと切に願います。私たちが必要と考えることを以下に要望いたします。

1.市長による現地視察を実行し、住民、団体と懇談会を開催すること。

2.「蒲生干潟」「日和山」「御舟入堀」「高砂神社」「なかの伝承の丘」「お地蔵様」「大和大明神」等の当地区の貴重な自然や歴史的価値ある資産を一体的に利活用する計画が必要である。具体的には、区画整理事業終了後の当地区の自然や歴史と文化の継承について、行政、市民、関連企業が連携して具体的なまちづくりを進める協議会をつくること。

3.市の保有地にある御蔵跡、船溜り跡地や貞山堀を公園化して、当地の歴史と文化のシンボルとなるよう整備すること。

4.震災前には、当地で歴史と自然に囲まれた人々の暮らしが営まれていたことを伝える「蒲生ふるさとロードマップ」をつくり、地域の自然・歴史・文化を尊重した被災跡地の利活用と賑わいづくりに役立てること。

5.日和山を含む周辺地域を「日和山公園」として、整備すること。具体的には、駐車場に水洗トイレを設置し、日和山背後の一角に、クロマツやヤマザクラ、ハマナスなどを植樹し、ふるさとの森とする。樹種は震災前に当地に生育していた在来種とし、毎年、市民が植樹を行う等の地域と連携した活動を進めること。

6.河川堤防内陸側の緩衝緑地を単なる凹凸をつけた覆土で終わりとせず、ふるさとの森づくりに利活用すること。具体的には、市民がこの場所に植樹することによって海岸林を育て、防災・減災や生物多様性に寄与するグリーンインフラの取り組みを推進すること。

7.仙台市復興計画に掲載の「美しい海辺を復元する海辺の交流再生プロジェクト」の一環として、貴重な生命の宝庫、蒲生干潟を積極的に保全し、利活用すること。具体的には、環境教育の実践場所として活用し、ラムサール条約登録を目指して、積極的な保全策を立てること。

8.当地区の区画整理事業進捗に伴い、水害や大気汚染、騒音の増加など、生活環境や自然環境の悪化が大いに危惧される。市などの行政は、率先して、地区事業者に事業所敷地内の緑化や環境整備等を行わせ、環境悪化を軽減させると共に、住民サイドでの地区内の問題を把握し、対策を講じる責務をもつ。そのために、行政と事業者だけでなく、地域住民や関係団体が定期的に協議し、協働する体制が必要である。財・官・民一体となって、当地区のまちづくりを推進する組織をつくること。

以上 


JAWAN通信 No.137 2021年11月30日発行から転載)