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真庭市の概要と地域おこし協力隊活動での試み

真庭市地域おこし協力隊 千布拓生

図1-1

1.真庭市の概要

岡山県真庭市は、平成の大合併の中で、2005(平成17)年3月31日に上房郡北房町、真庭郡勝山町・落合町・湯原町・久世町・美甘村・川上村・八束村・中和村の5町4村が合併し、市制施行となった自治体です。2021年10月現在の人口は42,052人。面積は828.53k㎡であり、岡山県内で最大です。

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岡山県真庭市蒜山高原の南側から見える雲海。数十万年前の烏ヶ山の噴火により旭川の水がせき止められ、古蒜山原湖という湖があった頃を彷彿とさせる。

北端の蒜山高原は、大山隠岐国立公園大仙蒜山地域に指定されています。低いところでも標高400m程度あり、鳥取県と接している影響で山陰側の気候に近く冷涼、冬季には積雪があります。

また、岡山県3大河川の1つである旭川の源流があります。この旭川は支流との合流を繰り返しながら市内のほぼ中央部を南下し、瀬戸内海まで下っていきます。旭川流域では、農業、林業が盛んですが、北部の蒜山では冷涼な気候を生かした高原野菜が、南部の北房などでは、温暖な気候を生かした葡萄や梨などの果樹栽培が盛んという特色があります。また、古くから林業・製材業が盛んであり、「美作桧」をブランドとした西日本有数の木材集散地であり、素材生産業者が約20社、原木市場2社・3場、製材所が約30社あります。さらに、近年は「木質バイオマス発電」によるエネルギーの自給率の向上にも取り組み、2018年には年間71,977tc(炭素換算)の木質系バイオマスを利用して発電を行っています。

2.真庭市地域おこし協力隊

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期は概ね1年以上、3年未満です。

真庭市では2013年から協力隊制度を運用しており、私で通算23人目となります。現役隊員は私を含め7名です。それぞれ、食、映像、防災、福祉、自然、教育、歴史など各々が得意とする分野と、地域課題とを結びつけながら、互いに連携して活動しています。

3.千布の経歴・活動内容

私は、鳥取大学農学部で森林生態系や植生学等を学び、前職では環境コンサルタントにて、環境アセスメント業務等に従事する傍ら、在職中に、大山隠岐国立公園大山蒜山地域奥大山地区の植生計画の立案について研究し、博士(農学)を取得しました。

その経験を活かし、協力隊の活動では、自然環境の保全と利用の両立を目指して活動しています。

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千布は協力隊活動の中で、サイクリングなどのアクティビティを通じて、一般の方に蒜山の自然の魅力を伝え、蒜山の自然への関係人口がどんどん増えていくように取り組んでいる。

というのも、自然環境の調査や研究だけでは、自然環境の保全を推し進めることはできません。特に、里山の半自然草原や湿原などは、かつては資源獲得の場であり、地域の文化や生業によって、定期的に人の手が入ることにより、環境が維持されていましたが、今では生活様式の変化などにより、利用価値を失い人の手が離れてしまったがために、遷移が進んで環境が大きく変わっています。

そのため、そのような環境を保全していくためには、崇高な志も大切ですが、今の価値観に合わせて、草木や景観などの自然資源から物品やサービスを生み出すことにより、経済的価値を生み、その利益を自然保全活動に還元していくような仕組み作りを行う必要があると考えています。

現在取り組もうとしている内容を2つご紹介します。

◆茅の利活用の再興

蒜山ではおよそ800年前から草原に火をいれる山焼きが行われており、戦後は大きく草原面積を減らしたものの、今でも集落やボランティアの方々の手により、春に山焼きが行われています。そのため、草原性の希少な野生動植物が多く生息・生育しています。

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蒜山に残る半自然草原の1つ、鳩ヶ原。山焼きは、ボランティア組織「山焼き隊」によって4月に行われる。

ただし、高齢化などにより、山焼きが途絶えてしまう恐れがあります。そのため、草原から経済的価値を生み出そうと、若手農家を中心に2021年1月から「蒜山茅刈出荷組合」が設立されました。私も協力隊活動の一環で支援しており、文化財や民家などで茅葺きが日本で最も多く現存する一大消費地である関西地方から地理的に近いなどの強みを生かして、茅を刈り取り、出荷販売する事業で収益を挙げるように頑張っています。

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晩秋の茅刈り体験会。職人の指導のもと、刈り取り、束ね、島立て、屋根葺きの体験ができる。

◆湿原の自然再生作業

蒜山では、わかっているだけで15箇所ほどの小規模湿原があります。以前はそれらの多くで、トキソウやサギソウ、モウセンゴケ、ミツガシワなどが多く見られたと聞きますが、現在はヨシなどの高茎草本、ハンノキなどの樹木が繁茂し、かつての姿が喪(うしな)われつつあるようです。

今後、詳細な調査を進めるとともに、保全すべき植生と競合してしまう植物の除去などが必要ですが、多大な労力が必要なため、自然再生塾のような形で、そのようなことに興味がある一般参加者を巻き込みながら、実践を進めていきたいと考えています。

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真庭市蒜山津黒高原湿原の解説板。津黒高原湿原自然再生協議会により、自然再生作業が2013年から継続して実施されている。このような例を蒜山の他の湿原でも行いたいと考えている。
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津黒高原湿原では、津黒高原湿原自然再生協議会により、2013年から継続して自然再生作業が実施されている。真庭市地域おこし協力隊の千布隊員も協議会のメンバーとして参画している。写真は2021年に湿原内の木道を延伸する様子。湿原観察のほか、湿原の踏み荒らし防止や再生作業時の資材運搬路として活用される。
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津黒高原湿原における湿原再生作業。湿原を被陰するなどの理由で樹木を伐採
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津黒高原湿原における湿原再生作業。左は、ヨシなどの高茎草本やハンノキなどの実生を刈り取る前。右は、それらを刈り取ったあと。刈ったバイオマスは湿原の外に搬出する。

【参考文献】


JAWAN通信 No.137 2021年11月30日発行から転載)