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三番瀬に第二東京湾岸道路はノー

─「新たな湾岸道路整備促進大会」を開催─

三番瀬を守る連絡会 中山敏則

三番瀬は東京湾の奥部に残った貴重な干潟・浅瀬である。三番瀬保全団体は、三番瀬を通る第二東京湾岸道路の建設を28年も阻止している。だが国交省と千葉県は建設をあきらめない。7月20日、千葉県と沿線6市が「新たな湾岸道路整備促進大会」を開いた。

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◆第二湾岸道路をあきらめない国交省と千葉県

第二東京湾岸道路は千葉県市原市と東京都大田区を結ぶ構想だ。「世界最大規模のエネルギー・素材産業の集積地」京葉臨海コンビナートと東京を結ぶ国家事業(国策)である。

第二湾岸道路は三番瀬を通ることになっている。第二湾岸道路が最初に具体化したのは1993年3月である。三番瀬を埋め立て、その真ん中に第二湾岸道路を通すという計画を千葉県が発表した。三番瀬保全団体は、世論をつくり世論によって埋め立てを阻止する運動をすすめた。埋め立て計画の白紙撤回を求める署名を30万人集めるなど多彩な運動をくりひろげた。これが功を奏し、県は2001年9月に埋め立て計画を白紙撤回した。

だが、国交省と県は第二湾岸道路の建設をあきらめない。県はその後、三番瀬の浦安寄りに位置する猫(ねこ)実(ざね)川(がわ)河口域で人工干潟を造成する計画をうちあげた。造成の際に第二湾岸道路を沈埋(ちんまい)方式で通すことが目的である。人工干潟造成をめぐる攻防は15年つづく。三番瀬保全団体のねばり強い運動によって、人工干潟造成計画も中止になった。2016年10月である。第二湾岸道路の建設も食いとめた。

それでも国交省と県はあきらめない。2019年1月、石井啓一国交大臣(当時)が「第二湾岸道路の建設に向けて検討会を立ちあげる」と発表した。国交省は同年3月、千葉県湾岸地区道路検討会を設置した。三番瀬保全団体は、第二湾岸道路計画の中止を求めて国交省や千葉県、船橋市、市川市と交渉をくりかえした。

検討会は2020年5月、新たな湾岸道路(高速道路)建設計画の基本方針をまとめた。ルートは、市川市の外環道高(こう)谷(や)JCT(ジャンクション)周辺-千葉市の蘇我IC(インターチェンジ)周辺-市原市の市原IC周辺だ。三番瀬は通らない見込みとなった。

三番瀬を避けたのは三番瀬保護運動や世論の力によるものである。かつては三番瀬沿岸の船橋、市川、浦安3市も三番瀬埋め立てや第二湾岸道路建設を推進する姿勢だった。しかし運動と世論の高まりによって、3市の姿勢は一変する。とくに船橋市は、三番瀬を通る第二湾岸道路計画に強く反対するようになった。2019年6月の船橋市議会で市長はこう述べた。

「三番瀬は次の時代にきちんと伝えていかなければならない大事な自然なので、それを最優先にしていく」

◆第二湾岸道路は依然として千葉県政の重要課題

それでもなお国交省と県はあきらめない。県は2020年6月に千葉県道路協議会を開き、高谷JCT周辺から西側、つまり三番瀬を通る第二湾岸道路の建設も国に要望することを確認した。そこには国交省の意向も反映されている。浦安市、習志野市、千葉市などの埋め立て地に確保された8車線の第二湾岸道路用地もそのままである。

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浦安市の埋め立て地に確保された8車線の第二湾岸道路用地。三番瀬の猫実川河口域で行き止まりになっている=中山敏則撮影
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千葉市美浜区の幕張メッセと千葉マリンスタジアムの間に確保された8車線の第二湾岸道路用地。そのうち4車線(右側)が道路として使われている。この第二湾岸道路用地も三番瀬で行き止まりになっている=アパホテルから中山敏則撮影

三番瀬を通る第二湾岸道路は、依然として千葉県政の重要課題になっている。新聞もこう報じている。

〈県内湾岸部で、建設計画が18年ぶりに再燃しているのが「第二東京湾岸道路」だ。(略)森田健作知事が2019年1月、再び建設に道筋をつけたが、三番瀬問題は依然、解決をみない。今後、どう進めていくのか。計画の行方は新しい知事に引き継がれる。〉(『朝日新聞』千葉版、2021年3月13日)

〈森田知事は2月4日、退任前最後の県議会で答弁に立ち、3期12年を振り返った。道路網整備の実績とともに、検討中の第二東京湾岸道路(第二湾岸)を挙げ、「県の10年、20年後を見据え、欠かせない」と強調した。〉(『読売新聞』千葉版、2021年3月17日)

◆「新たな湾岸道路整備促進大会」を開催

県と沿線6市は今年7月20日、「新たな湾岸道路整備促進大会」を開いた。沿線6市というのは、第二湾岸道路が通る予定の千葉、市川、船橋、習志野、市原、浦安の各市だ。

大会には、6市長のほかに国会議員や県議、国交省、経済関係者など100人近くが参加した。

熊谷俊人千葉県知事は今年4月に就任した。熊谷知事は「県内の高速道路ネットワークの整備を強力に進める」「県と沿線市が一丸となって新たな湾岸道路の早期実現にとりくむ」と述べ、第二湾岸道路の建設に積極的な姿勢を示した。

大会決議にはこんなことがもりこまれた。

①外環高谷JCT周辺から蘇我IC周辺ならびに市原IC周辺までの湾岸部において、多車線の自動車専用道路として早期に計画の具体化を図る。

②ルートや構造の検討にあたっては、三番瀬再生計画との整合性を図る。

③湾岸部の都県間についても検討をおこない、計画を具体化する。

④新たな湾岸道路の早期実現をめざすため、県と沿線市による既成同盟会を設立する。

③の「湾岸部の都県間」は、千葉と東京を結ぶ高速道路のことである。つまり、外環道JCT周辺から西側の第二湾岸道路建設計画の具体化もめざすということだ。浦安市の埋め立て地には8車線の第二湾岸道路用地が確保されている。この用地と高谷JCT周辺を結ぶと三番瀬の猫実川河口域を通ることになる。

新たな湾岸道路についてはこんな指摘がある。「三番瀬への壊滅的な影響から県民の目をそらすため、まずは三番瀬を避けて東側をつくる。その後、西側の東京方面に着手するもくろみだ」。

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『千葉日報』2021年7月21日

◆道路建設は「公共事業の王様」。「国滅びても高速道路あり」

道路建設は「公共事業の王様」と呼ばれている。

〈道路建設は「公共事業の王様」といわれている。というのも道路建設費は、敗戦直後から公共事業のなかで最大の支出項目であり続けてきたからだ。(略)政治的にも道路は「王様」といえる。長らくの間、自民党の最大派閥が利権化した莫大な道路予算を握り、これによって日本の権力をほしいままにするという政治構造ができていたからだ。(略)すべては選挙で得票するための公共事業なのである。〉(五十嵐敬喜・小川明雄『図解 公共事業のウラもオモテもわかる』東洋経済新聞社)

〈『毎日新聞』は「道路公団取材班」を組んで2001年夏から秋にかけて特ダネを連発した。例えば、同紙は、整備計画が決定している高速道路は将来の交通量が8割にとどまった場合、日本道路公団の2051年には赤字がゼロになるという償還計画は破綻し、68兆円もの負債が残るという旧建設省の試算があると報道したのである。それでもなお、日夜道路建設に奔走する自民党の道路族たち。彼らにとって永久に「国滅びても高速道路あり」なのである。〉(『朝日新聞』2008年2月19日)

三番瀬保全団体は三番瀬を通る第二湾岸道路の建設を阻止するため、世論を味方につけた運動をつづける。9月2日は県の道路計画課と交渉する。議題は新たな湾岸道路と第二湾岸道路である。

猫実川河口域の市民調査もつづけている。第二湾岸道路はこの海域を通ることになっている。そのため、この海域の調査を2003年からはじめた。猫実川河口域の自然の豊かさをアピールすることが目的である。市民調査は第二湾岸道路建設を阻止するうえで重要な役割をはたしている。

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ボートを降りて猫実川河口域のカキ礁に渡る市民調査の参加者。三番瀬保全団体は猫実川河口域を通る予定の第二東京湾岸道路建設を阻止するため、この海域の調査を2003年からつづけている。猫実川河口域の自然の豊かさをアピールすることが目的である。市民調査は第二湾岸道路を阻止するうえで重要な役割をはたしている。法政大学の学生も2013年から参加している=2021年5月30日
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三番瀬市民調査の参加者=2021年5月30日

JAWAN通信 No.136 2021年8月30日発行から転載)