トップ ページに 戻る

三番瀬の現状と保全運動

生物多様性ユースアンバサダーのインタビュー

三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則

生物多様性ユースアンバサダー(関東チーム)から三番瀬の現状と保全活動についてインタビューを受けました。ユースアンバサダーは、2021年5月開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に向け、15~30歳の若者(ユース)が地域ごとに活動しています。関東チームは「東京湾の干潟と人々のかかわり」を調べています。以下はやりとりの一部です。

◆密漁が横行

──三番瀬の生態系に悪影響を与えているものとして密漁をあげておられるが、密漁はいつごろはじまったのか。

三番瀬での密漁は数年前から激しくなった。商売人たちがアサリ、ホンビノスガイ、カキ、コメツキガニ、ニホンスナモグリ、イボニシなどを大量に採っている。

──密漁によってどのような被害が発生しているか。

カキの密漁は三番瀬の生態系や環境に影響を与えている。とくにカキ礁はさまざまな生き物のすみかや食堂となっている。水質浄化能力もたいへん大きい。密猟者はカキ礁のカキもごっそり採る。

◆第二東京湾岸道路を27年阻止

──干潟への良い影響としてこの10年間にどんなものがあるか。

1993年3月、千葉県が三番瀬埋め立て計画を発表した。三番瀬干潟のほとんどを埋め立て、そのど真ん中に第二東京湾岸道路を通そうとするものだった。埋め立て反対運動の高まりによって、この計画は2001年9月に白紙撤回となった。

写真3-1
市民500人が三番瀬で手をつなぎ、「人間の鎖」で埋め立て計画撤回を訴えた。参加者の大半は若者である。マスコミも大きく報じた=1998年11月

だが国交省と県は第二湾岸道路の建設をあきらめない。第二湾岸道路は三番瀬を通ることになっている。県はその後、三番瀬の浦安寄りに位置する猫実川河口域で人工干潟造成計画をうちあげた。この海域に第二湾岸道路を通すことが目的だ。三番瀬保護団体の運動によって、この計画も2016年10月に中止となった。

それでも国交省と県はあきらめない。2019年1月、石井啓一国交大臣が「第二湾岸道路の建設に向けて検討会を立ちあげる」と発表した。国交省は同年3月、千葉県湾岸地区道路検討会を発足させた。

検討会は2020年5月26日、新たな自動車専用道路建設計画の基本方針をまとめた。基本方針が示したおおまかなルートは、外環道高谷JCT(市川市)周辺-蘇我IC(千葉市)周辺-市原IC周辺である。三番瀬は通らないことになった。三番瀬を回避させたのは三番瀬保護運動と世論の力である。

◆沿岸3市の対応が変化

──2011年以前と比べてこの10年間のほうが良くなったことはあるか。

三番瀬に接する3市(船橋市、市川市、浦安市)の対応が大きく変わった。かつては、3市とも三番瀬埋め立てや第二東京湾岸道路を積極的に推進していた。近年は違う。

船橋市は2017年7月に三番瀬環境学習館を、浦安市は2019年6月に三番瀬環境観察館をオープンさせた。市川市では、2018年4月の市長選で三番瀬保全を選挙公約に掲げた候補者が当選した。

第二湾岸道路建設にむけた検討会の設置を国土交通大臣が2019年1月に表明したさい、3市の市長は懸念を表明する文書を連名で県知事に提出した。文書は「第二東京湾岸道路に関するこれまでの計画では、貴重な干潟である三番瀬や住宅密集地を通過し、環境や漁業、市民生活への影響が懸念されております」と記し、「関係市の意見や要望を聴取・斟酌(しんしゃく)すること」などを求めている。

船橋市長は市議会でこう公言した。「三番瀬は次の時代にきちんと伝えていかなければならない大事な自然なので、それを最優先にする」。

三番瀬の生態系や自然環境が良くなったということは、三番瀬保護団体も行政(県、関係市)も確認していない。

◆第二湾岸道阻止に市民調査が貢献

──三番瀬市民調査はどのようなものか。

2001年9月、三番瀬埋め立て計画が中止になった。県はその後、三番瀬の浦安寄りに位置する猫実川河口域で人工干潟の造成をめざした。この海域に第二東京湾岸道路を沈埋方式で通すことが目的である。

そのため、三番瀬保護団体は2003年に「市民調査の会」を発足し、猫実川河口域の調査をつづけている。この海域の生態系の豊かさを証明してアピールすることが目的である。

調査は、猫実川河口域の干潟が昼間に干出する4~9月に月1回実施している。調査項目は生き物、カキ礁、アナジャコ巣穴数、酸化還元電位、塩分、透視度などである。毎回参加する調査員のほか、学者、研究者、大学生、弁護士、県議会議員、記者なども参加している。これまでに1回以上参加した人は300人を超える。市民調査報告会を毎年12月に開いている。

調査の結果、つぎのことを証明した。この海域は生物相がたいへん豊かであり、東京湾漁業にとって大切な“いのちのゆりかご”となっていることだ。ここには大規模な天然カキ礁が存在する。たくさんのアナジャコも生息している。これも市民調査ではじめて明らかになった。

この海域は生物多様性が非常に豊かである。自然のワンダーランドとなっている。それをデータで証明した。これが大きな効果を発揮し、県は2016年10月、人工干潟造成計画を中止した。第二湾岸道路の建設も食い止めた。

──市民調査に参加する大学生はどのようなグループか。

2013年から法政大学の人間環境学部高田ゼミ生も調査に参加している。これまで市民調

査に参加した法大生は実数で90人を超える。年1回開いている市民調査報告会では高田ゼミ生もゼミ活動を報告している。東京大学や東邦大学などの学生も参加した。

写真3-2
三番瀬市民調査の参加者。この調査は第二東京湾岸道路が通る予定の猫実川河口域を対象にし、道路建設を阻止するうえで大きな役割をはたしている

◆マリンスポーツを規制

──マリンスポーツは三番瀬にどのような影響をあたえているか。

三番瀬は利用ルールのないことが問題になっていた。水上オートバイ、モーターパラグライダー、ウインドサーフィン、カイトサーフィン、カヤック、ゴルフ、ラジコン機など、マリンスポーツや危険な行為がやりたい放題になっていた。そのため、潮干狩りなどの利用客は危険にさらされていた。モーターパラグライダーや水上オートバイ、カヤック、カイトサーフィンなどによって野鳥が追い散らされることもあった。日本有数の渡り鳥の飛来地なのに野鳥が干潟や浅瀬に飛来することができない。そういうことも起きていた。

そこで三番瀬保護団体は利用ルールづくりを県と船橋市に求めた。その結果、船橋市と市川市が共同で管理している区域については、船橋市が「利用に関する行政指導指針」を制定した。施行は2017年7月1日である。行政指導指針はこんな行為を禁止している。①花火、たき火、バーベキューなど火気を用いること。②ゴルフ、ドローン、ラジコン機、モーターパラグライダー、カイトサーフィン、水上オートバイの使用、犬の放し飼いなど、ほかの利用者の身体に危害をおよぼすおそれのある行為をすること。

行政指導指針の制定によって、同区域内でのモーターパラグライダーやゴルフなどの利用はおおむね見られなくなった。しかし市が管理している区域の外では、水上オートバイやカヤック、ウインドサーフィンなどを利用している人がときどき見られる。

◆漁業の現状と漁師との交流

──盤洲干潟や三番瀬ではノリの生産量やアサリの漁獲量が減っているとのことだが、減少の原因はなにか。

盤洲干潟の場合は、アサリに寄生する節足動物のカイヤドリウミグモが発生し、貝の身がやせ細ってしまったことが原因とされている。アサリなど二枚貝を捕食するツメタガイの食害も指摘されている。

近年は三番瀬もアサリの漁獲量が激減している。三番瀬では冬季減耗が原因とされている。が、減耗の要因は解明されていない。

──地元漁師さんとの交流はあるか。あればどのような交流か。

「御菜浦(おさいうら)・三番瀬ふなばし港まつり」が毎年開かれている。その実行委員会にさまざまな団体が加わっている。三番瀬保護団体や船橋市漁協のみなさんも加わっている。

2009年3月、八千代松陰高校演劇部に「船橋三番瀬物語 飯盛り大仏」を上演してもらった。江戸時代、横暴な権力に抗して命がけで三番瀬を守った船橋漁師のたたかいを描いた演劇だ。実行委員会の委員長は船橋市の漁師がつとめてくださった。事務局長は私がつとめた。船橋市漁協(船橋市漁業協同組合)からも多額のカンパをいただいた。

◆ラムサール条約登録をめぐって

──ラムサール湿地に登録するためにどのような活動をしているか。

署名集めや行政・地元漁協への働きかけなどをつづけている。署名は現時点で18万人分を集めている。

しかし、ラムサール条約登録は地元自治体の同意が条件となっている。千葉県は、三番瀬を通る予定の第二東京湾岸道路の建設をあきらめていない。そのため、登録に消極的である。地元の漁協(2漁協)や一部の環境団体も登録に反対している。環境省も三番瀬の登録には消極的である。

三番瀬では、船橋市漁協がラムサール条約登録賛成決議をあげた2008年3月から2010年にかけて船橋側海域の部分先行登録(段階的登録)の気運が高まった。この気運に水をさしたのは環境省である。

県知事の諮問機関「三番瀬再生会議」の第24回会合において、再生会議のラムサール条約登録ワーキンググループ(WG)が段階的登録を提案した(2008年6月13日)。この会合では、当時の船橋市漁協組合長も部分先行登録を強く求めた。三番瀬保護団体や企業などが結成した「三番瀬のラムサール条約登録を実現する会」も船橋海域の先行登録にとりくむことを決めた(2008年10月1日)。このほか、地元の船橋、市川、浦安3市で構成する京葉広域行政連絡協議会が森田知事に対し、三番瀬ラムサール条約登録推進の要望書を提出した(2010年3月2日)。

ところが環境省は、「船橋部分のみの登録は認められず、段階的な登録の場合は全体登録に向けて具体的な道筋がついている必要がある」との見解を示した(2010年12月)。これによって先行登録の気運は断たれてしまった。

その後、船橋市漁協では、登録に積極的だった組合長が退任し、登録に反対する人が組合長に就任する。同漁協は、ラムサール条約登録賛成決議を撤回し、登録反対を打ちだすようになった。

◆若者の参加を増やすために

──自然観察会などに参加した人になんらかの変化は見られるか。

自然観察会に参加すると三番瀬の自然の豊かさを肌で感じることができる。ほとんどの人が三番瀬のラムサール条約登録を求める署名に協力してくださる。三番瀬保護団体に入会する人もいる。

──若者の参加を増やすためにどのような活動をしているか。

敷居の低い自然観察会や市民調査などへの参加を働きかけている。大学生など若者のグループから現地見学の案内を依頼されたときは積極的に案内を引き受けるようにしている。行政が主催するイベントにも積極的に参加し、三番瀬の豊かさをアピールしている。公共施設などで写真展も開いている。

元旦は、数百人の初日の出客が三番瀬を訪れる。若者が多い。そこでもラムサール条約登録を求める署名を呼びかけている。

このようなとりくみをねばりづよくつづけることにしている。

──市民参加の活動として具体的にどのようなことを考えているか。

自然観察会、親子観察会、市民調査、講演会、三番瀬環境学習館での展示、地元市主催の環境フェア、写真・絵画展、コンサート、演劇、シンポジウムなどである。

──中山さんが干潟保護運動にかかわったきっかけはなにか。

自然観察会に参加し、干潟の重要な役割を認識した。さまざまなイベントに参加し、干潟を守ろうと献身的にがんばっている人たちの存在も知った。


JAWAN通信 No.134 2021年2月28日発行から転載)