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 生物多様性を棄損する輸入アサリの放流

─生物多様性10年の総括として―

山本茂雄

◆はじめに

1997年7月に「アジアの浅瀬と干潟を守る会」を立ち上げたとき時、私たちは2つの課題解決を会則に盛り込みました。ひとつは青潮の撲滅、もうひとつは輸入二枚貝の流通消費の正常化です。青潮は、東京湾を除いてはほぼ解決できたのではないかと思っていますが、輸入二枚貝については道半ばです。

20年以上、輸入二枚貝の流通経路の可視化と是正に奮闘してきた私たちは、今年、思いもよらないスクープ映像の撮影に成功しました。それは、今年4月後半の大潮のとき、熊本県北部の干潟でサーチライトを煌々(こうこう)と照らし、深夜に行われている輸入アサリの蓄養作業でした。

熊本県では、約30年にわたって輸入アサリの蓄養が行われてきました。しかし熊本県は、1990年代前半の蓄養事業開始以来、「県内の港で陸揚げされていることは承知しているが、その先については関知していない」との姿勢を崩していません。

在京キー局のテレ朝、TBS報道部には取材を永年していただいてきたのですが、せいぜい「産地偽装」にとどまり、大量かつ継続的な直播き放流(延べ100万トンから120万トン)による遺伝的なかく乱までは踏み込めずにいます。

しかも放映は名古屋ローカル「CBCテレビ」がせいぜいで、現場である有明海沿岸4県(熊本、佐賀、福岡、長崎)、東京湾沿岸である首都圏での放映は、残念ながら実現できていません。

◆輸入アサリ蓄養の目的

輸入アサリ畜養の目的は二つです。

①長い輸送距離と時間で弱ったアサリを立て込むため(立て込みとは、弱った貝を元気にし、ワレカケを殺して間引くこと)

②大潮にしか入荷しないアサリを一時保管し、ジャストインタイムで出荷するため

※近年は在来アサリが絶滅に瀕しているため、越年や定着を試みる地域も出現。

◆輸入アサリ放流による主な災厄(と関係省庁)

輸入アサリの放流がもたらす主な災厄と関係省庁は次のとおりです。

①外来種の移入・繁殖、在来種の絶滅(環境省)

②産地偽装(農水、厚労、消費者、経産省)

①には、外来食害種のサキグロタマツメタガイだけではなく、アサリを資源レベルで減少させたパーキンサス原虫や未解明の感染症が含まれます。そして在来種と外来種が入れ替わるといった、資源としての地域固有の遺伝子の喪失が危ぶまれます。

ホルスタイン柄の有明海の在来アサリ、パンダ柄の東京湾の在来アサリが、人知れず消え、セメント色をした大陸アサリに掏(す)り替わってしまう危機にあります。(有明海では起きている可能性が)

◆蓄養の実態

1.食品流通

中国遼寧省の大連港と釜山港が、日本への主要輸出基地となっています。

大連港からは、中国国内から集められたアサリと、中国に割譲されている北朝鮮の漁場から集められたアサリが日本に輸出されます。

釜山港からは、主に韓国西海岸で漁獲されたアサリ(北朝鮮原産アサリの蓄養を多く含む)が輸出されます。かつては、日本国内のアサリと色柄の似ていた韓国南海岸のアサリが主に輸出されていました。(日本と韓国南海岸のアサリは、遺伝的にも近縁)

しかし、沿岸の乱開発+日本と同様の感染症により資源が激減し、輸出どころではなくなってしまいました。

蓄養場は、熊本県沿岸全域、福岡県大牟田市三池港近傍、山口県宇部港近傍。大潮に20kg入りの麻袋800トンから1500トンが三池港、熊本港、三角港に陸揚げされ、その日のうちに放流。早いものは放流後3日から4日で再漁獲され、10kg入りの青色のネットに詰められて、元産地の業者のもとへ陸送。元産地か熊本県産などの表示で流通。11月から4月までシーズン中に10回の大潮があり、放流分はひと潮で再漁獲するのが基本。損益分岐点は減耗率25%未満。(活アサリ流通統計)

長く蓄養しない理由として、再漁獲がしやすいように生息適地よりも浅い水域に高密度で放流するために、長く置けば置くほど身がやせ細ってしまうため。(これは消費者が一番損をするところ)

2.観光潮干狩り

把握しているのは千葉県のみで、残念ながら総量や頻度は未解明です。木更津港に60トンから182トン陸揚げされているものの、ニーズから10倍くらいは放流されているのではないかと推測しています。千葉県は、輸入アサリの放流は認めているものの、生物多様性の概念が欠落しているためか、「漁協が自らの裁量、責任で行っている経済活動なので、県は関知しない」とのこと。(千葉県陸揚げの輸入統計表)

そこでお願いです。今年も11月から輸入アサリの取り扱いがはじまります。関係都道府県(熊本県、福岡県、山口県、千葉県)の環境部局とテレビ局に、まず実態の把握を要請してほしいのです。なぜならば、わたくし自身は緑内障の悪化で充分な活動ができなくなったからです。

◆改善案として

①実海域での直播き放流の禁止

②閉鎖型の陸上施設での蓄養(一時保管)

③在来アサリ遺伝資源の保全と回復

①を実施することは、千葉県での観光潮干狩りは③の“在来種の資源レベルの個体数回復がなされるまでお預け”ということです。

②は、三重県四日市市楠町で永年行われているシナハマグリ蓄養場がひな型になると考えています。

③は、私どもが2008年頃に東海大学と共同研究していた、マイクロサテライト方式による国内流通するすべてのアサリを採取・分析したゲノムの系統樹が役に立つと考えています。

◆さいごに

名古屋のCBCテレビが蓄養現場で採取した輸入アサリは、なんと北朝鮮の海州(ヘジュ)産でした。北朝鮮には、中国国境の近くに新義州(シギジュ)、平壌に近い南甫(ナムポ)、韓国のソウルに近い海州と3つの大きな漁場があります。海州は韓国に最も近い漁場で、北朝鮮産の中では最も色柄が韓国の南海岸や日本のアサリに近く、産地偽装しやすい貝です。

同じ朝鮮半島内でも一目でわかる特徴があり、固有の遺伝子があります。まして島国の日本には、より多様な遺伝子を持ったアサリが生息しています。

この文章が過去形にならないうちに対策をとりたい、と願っています。


(JAWAN通信 No.128 2019年8月30日発行から転載)

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