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諫早湾開門訴訟の現状

諫早湾の干潟を守る諫早地区共同センター 事務局長 坂田 輝行

 はじめに
 
 長崎県瑞穂漁協のアサリ養殖業者の話です。昨年は稚貝を34トン放流して、水揚げは3トン程度。今年も同様に播(ま)いて水揚げはほとんどゼロ。有明海が成貝すら育たない「死の海」になりつつあります。
 国・農水省は「開門せよ・開門するなの2つの義務に挟まれて身動きできない」と言います。諫干開門問題は一見、混迷しているかに見えます。実際はどうでしょうか。

1.福岡高裁「開門確定判決」

 2010年12月、福岡高裁で開門判決が出されました。時の菅直人内閣は上告を断念し、判決が確定しました。これにより、国は「3年以内の対策工事の後、5年間の水門開放」の義務を負うこととなりました。確定判決は消えることはありません。政治的に覆すこともできません。開門に反対するある長崎県議は農水大臣に「超法規的に開門しない決断」を迫りました。

〔写真1〕
国営諫早湾干拓事業の開門調査を実施するまで国に制裁金を科す「間接強制」について、佐賀地裁は、制裁金を倍額とする決定を出した=2015年3月24日、佐賀地裁前

2.間接強制「制裁金」

 2013年12月20日、国は開門期限が過ぎても開門しませんでした。確定判決不履行は国が法を守らないということ。国が法を無視するという前代未聞の出来事がここから始まりました。翌21日、私たちは「開門不履行抗議集会」を開催しました。この集会に農水省・九州農政局から官僚3名が出席しましたが漁業者への謝罪の言葉は一言もありません。国は「確定判決の主文(開門義務)は受け入れるがその根拠となった諫干事業と漁業被害の関係は認めない」と言います。諫干事業と漁業被害に関連性が無ければ開門する意味はありません。国は開門する意志が全く無いのです。12月24日、勝訴原告(漁業者)は間接強制・制裁金の申請を佐賀地裁に行いました。「制裁金」とは判決を履行しないことに対するペナルティー(罰金)です。漁業被害に対する補償金ではありません。
 開門反対の諫早市民の多くが「漁業者は金をもらっとるくせに、もっと金が欲しかとやろ」と言います。汚い中傷です。この論の発信源は誰なんでしょう。開門を求める漁業者は真剣に有明海の再生を願っています。お金欲しさではありません。
 2014年4月佐賀地裁は「ひとり1日1万円」の制裁金を認定し、翌日から振り込まれています。国は即日控訴して抵抗します。制裁金を払ってでも確定判決を守らない、開門調査を開始しません。同年6月福岡高裁は制裁金を認め国の執行抗告を棄却します。さらに2015年1月最高裁は国の抗告を棄却し制裁金が確定しました。2014年12月制裁金の増額が申請され、2015年3月佐賀地裁で「ひとり1日2万円」に倍増しました。しかし国は開門しません。制裁金は判決が履行されるまで増額申請によって何回も倍増していきます。制裁金は国民の税金です。開門しないのは官僚個人の給料が減る訳ではないからでしょうか。

3.間接強制「制裁金」に課税

 制裁金は形式上は漁業者個人の名目で払われているかもしれません。しかし、実態は弁護団の口座に一括して保管されています。この制裁金は有明海再生のための研究等に使うとされています。漁業者個人に分配される訳ではありません。
 ところが国は漁業者個人の収入として課税してきました。漁業者は個人の収入にもなっていないのに課税された訳ですから不満が募るのは当然です。弁護団は制裁金に課税するのはおかしいとして国と交渉しています。制裁金はもし「請求異議訴訟」で被告(漁業者)が負ければ、国へ返納しなくてはなりません。まだ自由に使えるお金ではないのです。

4.長崎地裁「開門差止請求訴訟」と仮処分決定

 2011年04月、長崎地裁に「開門差止請求」が提訴されました。同年11月には「開門差止仮処分」が申請されました。この裁判は「開門したくない地元民」が「開門したくない国」を相手に提訴したもの。2013年11月、漁業被害を立証しない国はさらに開門対策工事に着手する意志のないことを見透かされて「開門差止」の仮処分決定が出されました。開門期限の1カ月前です。私はこの仮処分決定は国が負けるためにお膳立てした筋書き通りに進められた裁判の結果だと考えています。
 この裁判の仮処分決定も「開門すれば制裁金(1日49万円)」が確定しています。しかし、その理由は「対策工事なしに開門すれば被害が起こるから開門してはいけない」です。被害を防ぐ万全の対策工事実施後の開門ならば裁判所は制裁金を認定するでしょうか。仮に開門して制裁金が認められても、制裁金は開門差止派に行くだけであり、有明海は再生へ向かいます。何の問題もありません。

5.国の抵抗「請求異議訴訟」

 2014年1月、国は漁業者(勝訴原告)を被告とする「請求異議訴訟」を佐賀地裁に提訴しました。国の開門義務が消えることはないので、制裁金を無きものとし確定判決実効力を奪うことが提訴の目的です。国が確定判決を守らないことを棚に上げ、こともあろうに被害者である漁業者を被告として訴えた前代未聞の裁判です。
 司法上「請求異議」のシステムがあるからといって、被害者を訴えるとは国家公務員として国のやる仕事ではありません。同年12月、佐賀地裁は国の主張をすべて退け、断罪しました。私は佐賀地裁前で「国は控訴するな」と叫びましたが、国は即日控訴し、現在、福岡高裁で審理中です。この裁判は私たちの常識では負けません。もし、この裁判で漁業者が負ければ日本の「法治国家」は消滅します。司法の自殺行為です。裁判所にはしっかりした判断を示して頂きたいと期待しています。

〔写真2〕
佐賀地裁が制裁金を倍額とする決定を出したあとの報告集会

6.終わりに

 福岡高裁「小長井・大浦開門請求訴訟」、長崎地裁「開門差止訴訟」、福岡高裁「請求異議訴訟」などまだまだいろんな裁判が進行しています。しっかり支援していきます。同時に確定判決不履行・憲法無視の国は異常です。憲法をきっちり守らせるために裁判外でも国民の声を結集しなくてはいけません。今後とも皆さんと心を合わせて有明海再生を求めていきましょう。開門全国署名にも継続して取り組みます。私達の要求を私達の力で国に実行させましょう。
 

(JAWAN通信 No.111 2015年5月30日発行から転載)

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