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新幹線ルート「外側に変更を」

〜中池見湿地保全で国際シンポジウム〜


 中池見湿地(福井県敦賀市)は2012年7月にラムサール条約湿地となった。その中池見湿地(福井県敦賀市)がいま、危機にさらされている。ラムサール条約登録区域内を北陸新幹線が通過することになっているからである。ラムサール登録直前の6月29日、同新幹線が事業認可された。そのルート(新ルート)は、2002年に環境影響評価書が確定したときのルート(旧ルート)よりも湿地側に約150mも移っていた。中池見湿地がラムサール条約に登録されることがわかっていたのに、登録区域内で、しかも湿地にたいする影響がより大きいほうにルートが変更されたのである。
 そこで、この問題を主題にし、ラムサール条約湿地の保全と課題などを考えるシンポジウムが昨年12月21日、東京のYMCAアジア青少年センターで開かれた。主催は日本自然保護協会である。70人が参加した。

*同じことがヨーロッパで起きたら大問題になる

 シンポでは、ラムサール条約湿地になぜ新幹線を通すのか。どうすればいいのか。そして、減少が続く日本の湿地を守るためにはなにが必要か──などの問題や課題について意見が交わされた。
 最初に、国際湿地保全連合(本部オランダ)の事業部長をつとめているマーセル・シルビウスさんが「ラムサール条約湿地から考える持続的な利用と保全の知恵」と題して講演した。
 マーセルさんは泥炭湿地の研究者でもある。ラムサール条約湿地について包括的な話をするとともに、中池見湿地の特徴となっている泥炭地の重要性をくわしく解説した。中池見湿地や北陸新幹線の通過問題についてはこう話した。
 「中池見湿地の泥炭層は深さ(厚さ)が40mもあるという。おそらく、世界の泥炭地のなかで最も深い泥炭地ではないか。中池見湿地の泥炭は7万年もの歴史がある。中池見湿地の泥炭を研究することによって、大昔の時代を探ることもできる。中池見湿地は、歴史的な教育の保管庫という意味でも非常に重要である。また、地域にとっても非常に価値の高い場所である。国際的にも注目されている」
 「中池見湿地を訪れての印象だが、変だなと思ったことがある。それは、環境影響評価をした新幹線のルートを湿地側に150mも変更するということを事業者(鉄道・運輸機構)が自分たちだけで決めたことだ。なぜルートを動かしたのかと聞いたら、旧ルート上に何軒か家があったので動かしたとのことだった。それでは、家が何軒かあればラムサール登録湿地の中に新幹線を通していいのか、という疑問がわきおこる。中池見湿地は7万年もの歴史がある。希少な動物や植物も数多く生息している。たった何軒かの家を避けるために、そのラムサール条約湿地に新幹線を通すという。そのことにたいし、奇妙な感じをもった。同じことがヨーロッパ諸国で起こったら、住民からかなり大きな反対の声があがる」

*行政がキゼンとしないことがいちばんの問題

 つづいて、環境省自然環境局野生生物課湿地保全専門官の辻田香織さんがラムサール条約の登録制度の概要やラムサール条約を保全するための法的担保のしくみ、国内のワイズユース(賢明な利用)のとりくみ事例などを説明した。
 つぎは、NPO法人ウエットランド中池見の笹木智惠子さんである。笹木さんは中池見湿地の魅力や保全活動の歴史などを紹介し、こんなことを述べた。
 「中池見湿地は2012年7月、ルーマニアのブカレストで開かれたラムサール条約第11回締約国会議においてラムサール条約に登録された。私たちは、これで中池見湿地は守られる、と安堵した。市民も『よかったね』と喜んでくれた。安心して中池見湿地を次の世代まで残せると思った。ところが、ブカレストから帰るとすぐ、中池見湿地のラムサール条約登録区域内に北陸新幹線が通るという新聞記事を目にした。私たちはア然とした。まだラムサール締約国会議が開かれている最中だった。認可ルートは、環境影響評価がおこなわれた時のルート(旧ルート)よりも湿地側に150m程度変更されていた。この新ルートは後谷(うしろだに)を通ることになっている。そうなれば、後谷の自然は全滅する。ゲンジボタルは後谷にしかいないので、いなくなってしまう。後谷は棚田状の小さな湿地だが、生物多様性はたいへん豊かである。袋状埋積谷(まいせきこく)の口でもある。それがなくなったら口がなくなり、袋状でなくなってしまう」
 「中池見湿地はたえず危機に面している。いろいろな問題もかかえている。それは、行政が毅然(きぜん)としないからだ。もし開発が実行されたら、あとで一般市民が被害にあうことになる」

*もっと外側のルートを考えて

 最後に、日本自然保護協会の専務理事で、筑波大学大学院教授の吉田正人さんが、北陸新幹線のルート変更や、その中から見えてきた環境影響評価(アセスメント)制度の問題点と課題などを話した。
 パネルディスカッションでは、新幹線問題や環境影響評価制度、ラムサール条約湿地の法的担保、「湿地法」の制定などをめぐって4人の講演者と参加者の間で活発に意見が交わされた。
 最後にマーセルさんがこんな話をした。
 「新幹線の環境影響評価については、旧ルートと新ルート(認可ルート)を比べるだけではなくて、もっと外側のルート(ラムサール条約登録区域外)を考えてほしい。第三の選択肢を考えるということだ。旧ルートと認可ルートだけをみて、ほかのオプション(選択肢)を考えないというのは残念なことである。ぜひぜひ、地元住民のみなさんの努力がみのっていい結果になることを願っている」

パネリストのみなさん
(JAWAN通信 No.110 2015年2月28日発行から転載)

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