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ラムサール条約登録・中池見湿地と北陸新幹線問題

NPO法人 ウエットランド中池見  笹木 智恵子

 敦賀の市街地に隣接する中池見湿地は、絶えず開発の危機にさらされてきました。20年前、ガス基地建設計画が突如浮上したため、開発から湿地を守るためにトラスト運動を展開し、国際条約ラムサール条約登録湿地にすることを目的に活動してきました。
 JAWANはじめ、各地の保護団体の協力のもと、ようやく敦賀市も登録に前向きになりました。2012年7月にルーマニアの首都ブカレストで開催されたラムサール条約第11回締約国会議(6−13日)において国際的に重要な湿地と認定され、登録されました。
 ラムサール条約事務局長から登録認定書を受ける敦賀市長の姿に「湿地は守れた」と喜びました。それもつかの間、会議期間中に「ラムサール登録湿地・中池見湿地に新幹線通過」の新聞報道が出ました。2002年のアセスメントのルートより湿地側に150m移動させたものでした。移動が300m以内ならば、アセスメントから10年以上経過しても再アセスはしなくてもよいとのことです。環境が大きく変化しても賞味期限がないのが日本のアセスメントの現状です。
 発表された計画ルートならば、袋状埋積谷という特殊な地形の口の部分である後(うしろ)谷(だに)は破壊、消滅することになります。また、湿地の重要な水源の山に約900mのトンネルを掘る計画ですが、トンネルはアセスの対象外で調査はされていません。
 鉄道建設・運輸機構による中池見湿地トラスト地権者への説明会では、「新幹線現ルート計画の変更はないがアセスメントの事後調査を行うのでトラスト地への立ち入りを了解してほしい」との申し入れがありました。「ラムサール条約湿地通過の計画ならば、共有地権者(約600名)の同意がいるので、機構から地権者全員の了解の確認をとってほしい。でなければ立ち入りは了解できない」と返答しました。しかし、ラムサール事務局長の中池見湿地視察当日は、無断でトラスト敷地内に事後調査の地質ボーリング関連機材が置かれていました。
 湿地がラムサール条約に登録されても、開発の危機はなくなりません。国際条約軽視の縦割り行政の弊害です。敦賀市の担当課は、今回の事務局長の中池見湿地視察について、説明・案内すべてを管理団体に任せたようです。市は国際条約を締約した自治体の責任を考えていないようです。
 2時間の限られた時間の中で、泥炭を13万年間育んできた湿地と新幹線のトンネル問題をラムサール事務局にどのように訴えられるか思案しました。
 前日4月8日に開かれた市主催の歓迎レセプションにNGOとして参加しました。その折、詳しい資料や地図を用いてアジア担当官に湿地の命の水、水源について説明しました。担当官から「中池見湿地全体の地質図がないか」と問われ、翌日の中池見視察の時に持参することを約束し、会場を後にしました。

(JAWAN通信 No.107 2014年5月31日発行から転載)

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