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国土強靭化法案と
公共事業バラマキの復活

西島 和 (弁護士・公共事業改革市民会議)

公共事業バラマキ「復活」

 今年2 月、総額13.1 兆円の補正予算が成立した。このうち、公共事業費は2.4 兆円である。ここから「国土強靭化」という名の公共事業バラマキが始まった。
 もともと、本予算を増額する補正予算は、「予算作成後」におきたことに基づき、特に緊急に必要になった経費に限って認められる(財政法29 条1項)。
 しかし、「予算作成後」に、13.1 兆円もの増額を必要とする「緊急」事態はおきていない。このことは、民主党の桜井充衆議院議員が国会で指摘したが、維新の会、みどりの風などの一部野党議員はこの正論を理解することができず、なんと野党が多数を占める参議院でも補正予算は可決されてしまった。国会・中央官僚の劣化は絶望的で、希望は地方自治体にしかないようにも思える。

公共事業バラマキで不況は克服できない

 政府は、景気を回復し不況を克服するために補正予算を組んだという。しかし、公共事業バラマキでは不況は克服できない。
 この点について、経済学者で元内閣府参与の小野善康・大阪大学フェローは、次のように指摘している。つまり、「発展途上社会」から「成熟社会」(インフラが整備され、モノの生産力が十分にあり、需要が不足しモノ・サービスが供給過剰な社会)に入った日本においては、生産インフラを整備して生産性を上げても、かえって供給過剰がすすみ、不況を克服するどころか逆効果になるおそれがある。
 広い意味での「公共事業」は必要であるが、それは旧来型の「ムダな」土木事業ではなく、環境、介護、保育、健康、観光など経営的には「採算」を採ることが難しいが、国民生活の質が上がるような分野を対象とすべきである、と(『成熟社会の経済学―長期不況をどう克服するか』岩波新書)。

公共事業バラマキで地域経済は弱体化

 このように、公共事業バラマキで国の経済は改善しないし、国からの「一時金」で地方の公共事業依存度が増えれば、本来、地域が必要としていない産業が延命し、地方経済で本来おこるべき「産業転換」が起こらないし、自治体の「中央」依存度も高まる。
 「一時金」があるからと無理やりハコモノ・インフラをつくれば、ゆくゆくはその維持管理費用が自治体の「お荷物」となる。

公共事業バラマキは防災・減災を阻害

 現在、すでに、ハコモノ・インフラの老朽化は、自治体の「お荷物」となっている。
 『朽ちるインフラ』の著者で政府の老朽化インフラ対策審議会の委員でもある根本祐二教授は、公共事業予算の拡大だけでは、老朽化インフラ問題は解決しない、と指摘する。根本教授の試算では、現在あるインフラを単純に更新するだけで、年間8.1 兆円の投資を50 年間続ければならないが、そもそも、現時点で、将来の維持更新費用がいくらかかるのか、政府は把握していない。まずは現状把握を早急に行い、財政的に持続可能な計画策定が必要である。そのためには、「新規投資を後回しにする」という構造転換に加え、現在の社会資本の「選択と集中」が必要だ、と根本教授は指摘する。
 「選択と集中」は、サービスの削減につながるが、情報を正確に公開すれば、地域住民の理解は得られる、という(ダイヤモンドオンライン311 回「毎年8.1 兆円の更新投資が50 年必要 公共事業拡大では解決しない" 朽ちるインフラ" 問題」)。つまり、「予算バラマキ」による場当たり的な維持更新は、真に必要な維持更新を後回し・不可能にする、きわめて無責任な対応ということになる。

公共事業バラマキと自民党憲法草案の親密な関係

 公共事業バラマキは地域経済をますます疲弊させ、国の補助金と抱き合わせの旧来型公共事業への依存を強めさせる。人的・財政的資源は「見ばえの良い」新規事業へ回され、真に必要な老朽化インフラ対策は後回しとなり、地方自治体の「お荷物」は重くなり、それが地域経済を疲弊させ……という負のスパイラルで、地域の自主性は失われ、日本の「開発独裁」化が進展するのではないか。この事態は、自民党憲法草案(以下「草案」という)の先取りのように見える。
 草案は、地方自治体の権能について、現行憲法で認められている「財産を管理」する権利を削除し(草案95 条)、「国及び地方公共団体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない」とする規定を新設する(草案93 条3 項)。
 そうすると、例えば、自治体にとって便益の乏しい国の事業について、自治体は「直轄負担金」を発生させる事業の必要性について自治体は判断ができなくなり、自治体財産が国の草刈り場となるという事態が起こりうる。住民訴訟もできなくなるかもしれない。
 また、草案は、地方自治体の経費は、地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする、と定め、自主的な財源だけでは地方自治体サービスの提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じる、とする(草案96 条)。
 地方を生かすも殺すも国次第、と読める。

「公共事業に頼らない地域経済」

 国から降ってくる公共事業に頼る地域経済が高度成長期の「モデル」だった。地方自治体は頭をつかわなくても、池のコイのように口をあけて待っていれば「公共事業」で内需を拡大することができた。
 しかし、すでに大量のインフラが蓄積され、人口減少・財政難の「成熟社会」日本では、このようなモデルは時代遅れで、破滅への道でしかない。憲法が改正される前に、地方自治体はモデルを転換し、「公共事業に頼らない地域経済」をつくっていかなければ、地域住民ごと「中央官僚支配」に殺される。
 行政が動かないなら、住民が動かすしかない。

国土強靭化法案を廃案に!

 なお、本稿執筆中に、「防災・減災等に資する国土強靭化基本法案」が自民党の部会を通過した。
 法案は、「防災・減災」と銘打ってはいるが、要は「国土強靭化推進本部」という公共事業バラマキの組織をつくり、予算・人をはりつけようというバラマキ拡大法案である。
 この法案の成立で強靭になるのは日本の国土ではなく、安倍政権の利権構造である。力を尽くして廃案に追い込みたい。

(JAWAN通信 No.105号 2013年6月21日発行から転載)

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