トップ ページに 戻る

2011シンポ「日本の湿地を守ろう!」

5 月22 日、盤州干潟のある千葉県木更津市で

御簾納照雄 (小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会)

はじめに

 昨年、名古屋で開催された総会・シンポのおり、「来年は盤洲で」とお約束し、当会と共催というスタイルで5月開催の準備を進めていた矢先、東日本大震災が発生しました。木更津港でも2.83mの最大波を観測し、その波は小櫃川を9.8km遡上したとされますが、幸いなことに被害はありませんでした。被害に遭われた全国の皆様には心よりお見舞い申し上げます。
 原発事故や余震の続く中、予定通り開催すべきか悩みましたが、大震災の復旧や原発汚染の影響を見極めながら実施を決断しました。やむなく参加できなかった皆様へ、シンポ関連の概要と合わせて最近の盤洲を取り巻く状況を報告します。

前日の盤洲観察会

 総会・シンポを翌日に控えた21日(土)、昼食を早めに済ませた全国からの参加者15名が車に分乗し、小櫃川河口三角州入り口まで行きました。車から降りてゲートをくぐると、見渡す限りの湿地・アシ原(43ヘクタール)が広がっています。眼下の湿地は直径、高さ共に10cm ほどの富士山型をした砂地のでこぼこが広がっています。これはほとんどカニの「仕事」によるものです。川崎方面を右に観ながら100m ほど歩くとクリーク(小川)があります。この三角州には数本のクリークがあり、潮の干満により流れができます。また、その周辺にはカニがたくさん生息しています。今回もそこではたくさんのチゴガニが白いハサミを振って私たちを歓迎してくれました。更にその周辺にはアシハラガニがたくさん見られました。クリークを渡り、シオクグ群落の中にハママツナが少し見えました。このあたりには腹が紫色のコメツキガにも見られました。ここ数年、このカニは釣りエサとして乱獲されており、稚ガニは多く見られますが大きいものはなかなか見られません。
 アシ原を歩くこと10分ほどで前浜に出ると、中潮ではありましたが、そこは見渡す限りの砂質干潟です。少し沖へ出てステンレスざる網で砂を漉してみるとニホンスナモグリやアサリをはじめとした貝類がたくさん見られました。また一度は東京湾から絶滅したハマグリも捕れました。また残念なことにアサリを食う外来のサキグロタマツメタガイも見られましたが、少しずつ増えているような気がします。中央クリーク付近は、ここ数年、砂の堆積が続いており、ここでは新たなハママツナ、ハマヒルガオ、ハマエンドウなどの群落が形成されつつあります。
 参加者からは、「東京湾の原風景としての河口三角州と連続する盤洲は、存在することが奇跡だ。感動した。」、「ラムサール条約湿地でないのは不思議だ。」などと称賛の声頻りでした。

シンポジウム基調講演 「干潟・湿地の経済的価値」
 安田八十五教授(関東学院大学)

 昨日の観察会で久しぶりに盤洲を訪れたが、ここは東京湾の原風景をとどめる唯一の場所だ。
 千葉県は、過去に盤洲干潟も埋め立てる計画であったが、幸いに埋め立ては中止となった。奇跡である。地球上でここにしか生息していない昆虫・キイロホソゴミムシが発見されるなど学術上も貴重な場所である。しかしながら干潟を取り巻く環境は変化してきており影響が懸念される。早期に「千葉県自然環境保全地域指定」を実現する必要がある。そして持続可能な漁業と渡り鳥(水鳥)との共存共栄を図ることが必要だ。また公共事業と称して人工干潟が各地につくられているが、生物比較調査結果の分析からそれは自然干潟とは似て非なるものだ。自然干潟は人間によってつくることはできない。開発側のいう地域再生の基本理念とは経済効果であり、地域住民の側も長期的視点に立って自然保護による経済効果はより大きいことをデータ等で論理的に示す必要がある。自然干潟が持つ機能や価値の評価についても、自然科学的評価と社会経済的評価を有機的に結びつけ、学際的統合化を図ることが必要だ。

講演「ラムサール条約ルーマニア会議COP11 に向けて
 小林聡史教授(釧路公立大学)

 来年6月、ルーマニアの首都ブカレストでラムサール条約第11回締約国会議が開催される予定だ。初めての東ヨーロッパでの開催は意義深い。
 今年で40周年となるラムサール条約は、地球規模の自然環境保全のための環境条約として重要な局面を迎えている。生物多様性関連の環境条約とのシナジー(相乗作用)をどうするか、また1900カ所以上となった登録湿地のネットワークの有効性を検証する必要性が指摘されている。
 ラムサール条約では、条約が1971年イランの町ラムサールで採択された日、2月2日を記念して、毎年世界各地で「世界湿地の日」を祝い、湿地の価値と保全の意義の普及に努めている。2012年の「世界湿地の日」は「湿地、ツーリズムそしてリクリエーション」をテーマにして、これはそのままCOP11 の主要テーマになる予定だ。「リクリエーション及びツーリズム」は重要な生態系サービスとして強調されており、登録湿地・世界遺産でもあり生物圏保護区でもあるルーマニアのドナウデルタの保護は国際協力が求められている。このような個別の湿地保全問題を取り上げる時間が減っているラムサールCOP のあり方を問い直す機会でもある。
 2012年5月には「リオ+20」として最初の地球サミットから20年間の総括をする国連会議が予定されている。これまでも地球サミットへの対応、そして地球サミットに向けて採択された生物多様性条約及び気候変動枠組み条約とのシナジーが模索されてきたが、さらなるステップアップが求められている。特に名古屋で開催された生物多様性条約COP10 にて採択された戦略目標及び愛知生物多様性ターゲットへの湿地保全からの貢献が期待されている。
 2012 年ルーマニア会議まで、まだ1 年ある。三番瀬や盤洲もルーマニア会議で登録されるよう、あきらめないで最後まで頑張って欲しい。

各地からの報告

 1. 中池見湿地(福井県)
 2. 和白干潟(福岡県)
 3. 鬼泪山国有林からの山砂採取反対運動
   (千葉県富津市)
 4. 盤洲干潟(千葉県木更津市)
 5. 三番瀬(千葉県 船橋市・市川市)
 6. 千葉県の液状化被害(習志野市・浦安市)

木更津市長(左)と要請書を手渡す筆者(右)

木更津市および環境省を訪問

 総会・シンポの翌23 日(月)日本湿地ネットと当会は午前、木更津市長を表敬訪問しました。前日の総会シンポの報告と盤洲干潟保全要請書を手渡しながらの話し合いでしたが、市長は終始好意的な対応で、盤洲干潟保全に積極的に取り組む姿勢であることを確認しました。午後、三番瀬を守る会の牛野さんと合流し、環境省を訪問しました。自然環境局野生生物課登録調査係長が対応してくれました。こちらからは三番瀬、盤洲の現状を報告し、また環境大臣宛ラムサール条約湿地登録要請書を手渡しながら、ルーマニア会議に向けて登録の準備状況など聞きましたが、まだ全く白紙の状態とのことでした。

最後に

 各地からの報告では、バラエティーに富んだ報告を聴くことができました。行政を大きな味方にして、湿地保全運動が大きくなっている中池見湿地(福井県)、国有林(山)を丸ごと削り、砂を採って売ろうとした業者集団(県議と結託して)にたいして反対運動を盛り上げ撤回させた千葉県富津市の市民運動などです。これからの運動の大きな励みになります。また、講演後の討論で、原発からの放射性物質の広がりが話題となりましたが、千葉県内の浄水場の汚泥から放射性セシウムが高濃度で検出されております。また、私の住む君津市の産業廃棄物処分場に放射性溶融飛灰(5.500 ベクレル/kg)が大量に搬入されていることが判明し、これから行動を起こさなければならない状況となっております。本来であれば、遮断型最終処分場でなければ処分できなかったはずですが、現政権が7 月、8.000(ベクレル/kg)以下は管理型処分場に処分できるとしたためです。
 東京湾の底質も同物質が蓄積していることが予想されますので、湾内で捕れたカレイ、ヒラメ、コチなど底生の魚は食べて安全なのか心配されています。近くのスーパーではその魚類は値段も相当安く売っているのですが、購入を控える人が多い状況です。私たちの生活スタイルを変えなければならなくなってしまいました。
 シンポジウム終了後の懇親会では、迎えのバスに乗車し、約30 分かかって到着した「湧き水による手打そば屋」では、「全国から集まった客」ということから大歓迎のもてなしを受けました。そして「呑みながら」ならではの自己紹介やら楽しい会話に今後の活動のための大きなエネルギーを頂きました。
 盤洲観察会、総会・シンポ、懇親会、そして翌日の市長・環境省訪問とテンポよく流れた3 日間でした。遠方よりおいで頂き、ご講演いただいたお二人の先生、全国からお集まりの皆様本当にありがとうございました。今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。

(JAWAN通信 No.100 2011年9月30日発行から転載)

>> トップページ >> REPORT目次ページ