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東京湾で唯一の自然干潟 盤洲干潟

小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会事務局 御簾納照雄

はじめに

 先人の努力によって、東京湾に奇跡的に残された唯一の自然干潟である盤洲干潟は1400 h a もの広大な面積を有しています。また河口には43 ヘクタールの三角州が塩性湿地を形成し、そこにはヨシが生い茂り、東京湾の原風景を残しています。
 私たち「守る会」では、主催する観察会の折、このヨシ原をくぐり抜け、歩いて干潟に出ますが、この汽水域は生物相が非常に厚く、この一部でも観察に飽きることはありません。生物多様性の観点からも非常に重要な役割を担っております。「 JAWAN 通信78 号 2004.7」に『東京湾・盤洲干潟が危ない』と題して報告してから6年が経過しました。前回報告できなかったこと、そして、この間の状況変化と今後の展望について、初めて読む皆さんにもご理解いただけるよう以下に記します。

浄化機能・盤洲の場合

 干潟に生息する貝、ゴカイやカニ類をはじめとする底生動物の、水の浄化作用にはいつもながら驚かされます。小櫃川河口付近の水質は(周辺の河川も同様)COD(化学的酸素消費量:有機物による汚濁、値が小さいほどきれい)の値は8mg /l 前後ですが、干潮時、全面がカニの砂団子となり、密度高く生息するゴカイ類、またウミニナ、アラムシロガイなど巻貝やアサリをはじめとする二枚貝などにより、その周辺にできた水溜りの水質を測ると、3mg /l 以下となります。
 東京湾の平均水質が4〜5という数値であることから考えると、いかに干潟が水質を向上させているかが解ります。また、カニがあけた穴に再び潮が満ちてくるとき、その穴から空気が出てくるので、ブクブクと海水に多量の酸素が溶けることになります。満ち潮の時には三角州など、泡だらけになります。家庭で水槽に魚を飼うとき、酸素供給のために電気装置を使いますが、その巨大装置が干潟に備わっているわけです。
 底生動物は自らの消化機能だけでなく、穴を開ける物理的作業によっても水を浄化させるという非常にハイレベルな働きをしていることになります。そして、そこではシギ、チドリ類など、数百、数千羽単位の渡り鳥が、川の上流から運ばれた有機質を蓄えたそのカニやゴカイ類など底生動物を身体に納め、世界に分散してくれます。

東京湾で絶滅が心配されるハマガニ

干潟を汚濁から守る施設

 干潟直近に営業を開始して10年となる大温泉施設およびホテルの汚水の状況ついては前回報告しましたが、それよりもはるか以前に横断道路・アクアラインの路上に降った雨は自動車からの油分やタイヤの粉塵などと共に干潟に流れ込むことを懸念し、浄化施設設置を要請し(当会の桐谷副代表)、それが実現しているのです。広範な路上に降った雨を浄化して排水しているところは他に知りません。
 さらに、アクアライン入り口・金田料金所下に開業している漁業者が直接海産物を売る「わくわく市場」の下排水も最後に加える消毒のための塩素イオンを避ける意味で全量がバキュームカーにより市の運営する汚水処理場に搬送されており、干潟を汚濁することはありません。

「民話の里」が「有料老人ホーム」へ計画変更

 2000 年、三角州に隣接して子供を対象とした遊戯施設の計画が持ち上がり、それをきっかけに当会が発足しました。この遊戯施設「民話の里」については、干潟への影響、その内容( 子供たちに、たこ揚げなど昔遊びやウナギのつかみ取りなど体験させる)から、業者や木更津市に対して建設反対を要請しておりましたが、木更津市は2002 年10 月、問題は無いとして開発を許可しました。
 その後も業者に開発撤回を申し入れてきましたが、一昨年、建設会社を通じて有料老人ホームへ変更したい旨連絡があり、話し合いを持ちました。私たちは、建物の高さ・位置や排水などについて、非常にハードルの高い条件をつけており、業者もできる限り要請に沿うよう努力すると約束をしたものの、その後の連絡はまだありません。市環境部は「あきらめたのではないか」と発言していますが、建設会社の担当者になかなか連絡がつかない状態が続いています。

漁場の変化

 木更津市の干潟の地場産業として、海苔、アサリ、簀立て遊びがあります。しかし、海苔については2000 年頃から急激に生産量が減少し、1980 年頃と比較すると金額にして半分以下になり、漁業者にとって大変苦しい状況となっています。これは生産枚数の減少に追い討ちをかけるように1枚あたりの単価の下落があります。その原因は韓国などからの輸入が大きく影響していると思われます。
 また、アサリについても同様に2000 年頃を境に20 〜 30 年前から比較すると水揚げ量は半分以下になっています。さらに、ウミグモの大量発生により、貝の身がやせ細ってしまい、出荷できない状況がここ3 年ほど続いております。県や漁協は、はっきりした原因が究明できず、対策も立てられない状況です。

東京湾の原風景。河口に広がる塩性湿地

最後に

 横断道路・アクアラインに存在する「海ほたる」は地図上で計測すると長さ約800メートル、幅120メートル、面積は9.6ヘクタールにも及びます。このように巨大な構造物は橋脚も含めて考えると、海流に影響が無いわけがありません。その影響と思われることは、三角州の北西側が削られ、南西側に新たな岸が出来つつあり、既に5千平方メートルを越えています。また橋脚付近は干潮時、潮溜りが縞状にできるようになりました。
 貴重となった海浜植物であるシオクグやハママツナ群落は減少傾向にあります。そして海苔、アサリの生産急減は開発と機を一にしており、偶然の重なりとは思えません。
 それでも、護岸工事がされていない三角州のヨシ原を歩いて、その途中、何種類ものカニに出会いながら、また、野鳥の声を聞きながら、干潟に出入りができることはなんて幸せなのだろうと思います。このような自然は本当にめずらしくなりました。この貴重さを地元市民が、県民が気づき、認めることによって盤洲干潟をこれ以上損なうことなく後世へ伝えなければならないと思います。
 現地で観察会など多数実施すると共に、県内の三番瀬保全運動にかかわる皆様と、さらには日本湿地ネットワークなど全国レベルでの連携のもと、保全運動を進めます。皆様のご協力をお願い致します。


(JAWAN通信 No.97 2010年7月10日発行から転載)

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