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長良川に徳山ダムはいらない

武藤 仁 (長良川市民学習会事務局長)
 

 ムダにムダを重ねる徳山ダム導水路

 徳山ダム導水路(木曽川水系連絡導水路)事業は、長良川河口堰、徳山ダムに続く「ムダにムダを重ねる」事業として市民から批判を受け、着工が 1 年延期され今日に至っています。
 徳山ダム導水路は、徳山ダムに貯められた水を毎秒 20 m3(利水 4.0、環境改善 16.0)木曽川に流すように作られ、途中、鵜飼場の直上流岐阜市北部で長良川に毎秒 4.7 m3放流し、下流の羽島市あたりで木曽川に放流するものです。濃尾平野の北外延の山中を延長43 km、直径約4mのトンネルで高低差 50mを自然流下させます。
 総事業費は 890 億円。2015 年完成をめざしています。事業の目的は、愛知県、名古屋市の都市用水確保と異常渇水時における河川環境改善のための放流です。
 しかし、愛知県、名古屋市の水需要は減少傾向にあり、新規水源の確保の必要性は全くありません。一日最大給水量の 1.8 倍もの水利権を持つ名古屋市は、10 年以上前に運用を開始した長良川河口堰の水も一滴も使っていないというのが現実です。
 この導水路事業の最大の目的である「渇水時の環境改善のための水」も、徳山ダム建設直前 1996 年に名古屋市が「建設負担に耐えられない!」と返上したもので、誰も要らない水です。国はこの返上分を導水路で「木曽川のヤマトシジミを守るため」として、渇水時に毎秒 16.0 m3流そうというのです。「いらない水」が、税金負担の「環境改善」に化けたというのが今度の導水路計画の本質です。
 河口堰建設で長良川のヤマトシジミを絶滅させた国がこのことには口を閉ざして、今度は徳山ダムの水で「木曽川のヤマトシジミを救おう」と言うのですから驚きです。
木曽川水系連絡導水路の概要
木曽川水系連絡導水路の概要
  

河口堰で傷ついた長良川

 長良川は河口堰が建設され海と切り離されました。汽水域は死の水域となりました。堰下流にはヘドロが溜まり生物が見当たりません。ヘドロには無数の穴が見られますが、それはメタンの吹き出し口です。
 堰上流は真水となりヤマトシジミは消滅しましたが、淡水性のマシジミも 20km 上流まで見当たりません。両隣りの木曽川、揖斐川とは全く違う状況になってしまいました。 「アユも変わってしまった」と上中流の漁師や釣り人が嘆いています。市民学習会でも何度も実態報告がされました。
 しかし、河口堰ができてアユは小さくなり数は減っことははっきりしているが、なかなかその理由を明確にすることは難しいようです。心配です。
川底のヘドロ
長良川河口から 4km の川底のヘドロ メタンの吹き出し口が見える
(2009 年 6 月 27 日粕谷氏撮影)
 

長良川が用水路に

 さて、徳山ダム導水路は 2006 年「第6回徳山ダムに係る導水路検討会」で「上流一通」案が有力として国、三県一市で合意がされました。ところが、2007 年 8 月第 7 回検討会では、一変して一部を長良川に経由させる「上流分割」案が最終案として合意されました。
 「えっ!長良川に徳山ダムの水が?」市民にとっては全く寝耳に水。「なんで?アユは大丈夫?鵜飼はどうなるの?」首をかしげ怒りの声を上げました。
 この計画では ,渇水時の長良川の流水は 4 割以上が冷たく濁った徳山ダムの水になる。長良川が用水路になってしまいます。
 2007 年 12 月市民有志で ,「長良川に徳山ダムの水はいらない」市民学習会実行委員会(以下、「長良川市民学習会」という)が発足しました。市民学習会は事業の説明を国に求めるとともに、幅広く市民に呼び掛け学習会を繰り返しました。2008 年秋には岐阜県議会に対し、「導水路事業合意の撤回」を求める請願を約 2 万 5 千の署名を添えて行いました。
 議会は請願を否決しましたが、岐阜県は県民の声を無視することはできず、「国から環境に影響がないという県民に納得ができる説明がない限り着工を認めない」とする姿勢を示しています。
 長良川市民学習会は、国に対して「長良川に流すことになった」理由と経過を求め交渉を繰り返しました。事実経過を隠し続けた国も市民の強い声に押され、ついに情報を開示しました。
 公開資料から以下のことが明らかになりました。長良川を経由させることにより下流導水施設が建設される。ここに長良川から木曽川へのルートが実現し、これまで殆ど使えなかった長良川河口堰の水を木曽川に流入させ愛知県、名古屋市の取水が可能となる。
 長良川を経由させる導水路構想は、国民に「環境破壊・無駄な公共事業」のレッテルを貼られた、長良川河口堰の負の遺産を拡大する狙いがあったのです。まさに導水路事業は暗い過去を背負った事業です。
長良川を海と切り離した河口堰
長良川を海と切り離した河口堰

導水路中止、河口堰ゲートの開放へ

 5 月 15 日「名古屋市導水路から撤退」の新聞一面トップ記事は、市民をビックリさせました。河村たかし新市長の撤退表明です。
 私たちはこの表明を大歓迎します。現在、市上下水道局の役人からも三県知事からも撤退声明に対する反発は強く、予断を許さない状況にあります。しかし、「撤退ルール」が法的に確立している今日、名古屋市が撤退することは可能です。
 また、この事業は調査段階で工事費は数パーセントしか使っていません。今こそ止めるチャンスです。名古屋市だけの撤退でもこの事業は「見直し」となります。そうなれば、「それでも建設する」と言える余裕のある県はありません。
 6 月には愛知県を相手に導水路事業の公金支出差止請求を求める住民訴訟が起きています。ムダにムダを重ねる徳山ダム導水路事業中止の展望は大きく広がっています。
 導水路中止でムダな事業のツケは次世代に回さない。そして、私たちは河口堰ゲートの開放へと前進し、次世代に大事な川の自然を残したいと思っています。

日本湿地ネットワーク2009年度総会&シンポジウム終わる
(JAWAN通信 No.94 2009年9月25日発行から転載)

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