ラムサールCOP10の韓国を行く
(2008年10月22日〜29日)

伊藤章夫 千葉の干潟を守る会

1.はじめに

 千葉の干潟を守る会では、三番瀬のパネルを作製することから活動を開始した。三番瀬の売りは、大きなカキ礁、公金不正使用裁判後のラムサールバス走る、調査活動、署名活動、CEPA活動、漁業などである。作業の後半になってから看板芸術家とコンピュータの専門家の応援を得て見事に仕上がった。参加者は牛野くみ子副代表と伊藤章夫である。牛野はNGO総会と本会議に参加したが、伊藤は8日間エコツアーのグループであったので、二人は殆んど別々の行動になった。三番瀬を守る署名ネットワークの立花一晃さんと織内勲さんも参加した。

2.韓国湿地8日エコツアー

 8日エコツアーを報告、まず韓国湿地問題の概要を述べる。現在、韓国のラムサール条約登録地は8カ所から11カ所に増加した。しかし、干潟の大規模開発は進行中である。
 視察先の施設のある有名な湿地では韓国のボランティアが多く仕事をしていた。これは政府、道、郡、市政府が強力に進めていることの現れである。問題が起こっている湿地には環境運動の活動家や住民が立ち会ってくれた。彼らと交流できた。韓国では韓国環境運動連合(KFEM)が各地に支部を持つ国内最大の環境NGO組織である。彼らは湿地や渡り鳥の保護だけでなく環境問題全てを扱っている。韓国にはKFEMだけでなく、本会議の開催地昌原で交流した洛東江河口の「湿地と鳥たちの友達」会のような教員が中心になって組織した団体もある。ツアーの順に解説する。韓国在住のガイド田中博氏の貢献は大きい。
(1)始華湖(シファ):1987年から干潟に張り出した延長12.5km防潮堤防で干潟湿地を仕切り干拓している。始興市と安山市にまたがる。内湖の水位を低下させ、農業用地、都市用地、工業用地を造成し、必要な用水を、内湖を淡水化させて利用する“一石三鳥”の計画であった。しかし、工業排水(8000中小工場)、都市排水(人口13万人)は内湖水質を悪化させ、一時COD20ppmに達した。現在、水門を一日1時間程度開門し、干潮時に汚染した内湖水を排水し、満潮時に外海水を導入している。対策の結果COD4〜5ppmだが、まだ用水として使用できない。さらに政府は堤防中心部に2010年完成の潮位発電所を建設中で、完成すれば、内湖と外海水の混合は進行する。外海の漁業者は汚染された内湖の水を海に出すことに反対している。漁業環境も劣化した。この場所に水資源公社と農業基盤公社が設置した干拓失敗例も認める内容の展示館がある。しかし、湿地破壊は反省していない。
(2)浅水湾(チェンスマン):現代財閥会長が干拓した広大な農業用地である。ここには住宅も電柱もない。訪問したときは渡り鳥フェスティバルの準備中であった。機械で刈り入れの終わった田に多くの渡り鳥が群がっていた。干潟は農地になったが、渡り鳥には餌が供給されていた。河口にも渡り鳥が休息していた。
(3)錦江(クムガン):錦江の河口堰が設置されている。淡水を確保するためである。この影響は渡り鳥の飛来や貝類の漁獲にマイナスになっている。錦江湿地事業団事務所は調査や環境教育を進めていた。市役所と事業団職員が対応してくれた。
セマングム
(4)新萬金(セマングム):韓国最大の堤防長33kmの湿地干拓事業が進行中である。開口部区間長は1kmなので海水がほとんど入らず湾内の生き物は死につつある。日本植民地時代から食糧増産や軍事目的で干拓が進められており、郡山の旧日本軍飛行場は米軍航空基地として利用されている。米軍基地はセマングム干拓に乗じて、さらに用地の拡張を求めている。この地区では従来の環境問題に騒音が追加される。セマングムの当初計画は農業用地が70%としていたが、現在は30%に減少させ、都市用地とレジャー用地確保に変更されている。韓国住民、活動家と私達にとっても、この計画は一片の正当性もない単に建設業への儲け保障と自然破壊だと意見が一致した。漁民たちは、内湖で漁業はしているが、既に漁業権はなく、機械での漁業は禁止されている。将来はないと悲観している。事業が進行すると有刺鉄線が打設されたので、海に自由に出られなくなった。
(5)順天湾(スンチョンマン):川が蛇行し、円形のヨシ群落が美しい湿地である。よく保全されている。生態学習館や自然生態館が設置されている。葦の丈は高いが、高い木道が設置されているので、遠くまで見通せる。渡り鳥にとっても重要であるが、四季美しい。
(6)牛甫(ウポ):内陸湿地である。よく保全されている。上から見ると牛が寝ている姿である。牛の頭が突き出しているところ沼をウポと言い、周辺にも沼が並んでいる。
(7)注南貯水池(チュナム):昔は洛東江から塩水が上がって来たと言われる。1920〜30年代の人工湖であるが、現在は自然と一体である。近くの農地は二毛作にすると補助金がもらえる。冬季栽培の麦は鳥の餌になる。いわゆる冬水田んぼと違う効果がある。電柱は地下に埋められている。トモエガモは5万羽の群舞を見せる。鳥は洛東江河口、ウポを往復する。住民は開発が制限されると思っており、ラムサール登録に反対している。
(8)洛東江河口(ナクトンガン):釜山市の西側に河口を日本海に突き出す河口である。河口の両側は既に工場、高層住宅用地である。乙淑島は廃棄物処分場にも利用された。河口堰は塩分含有水道水を改善したが、シジミが取れなくなった。下流にさらに大橋を建設中である。ヘラサギは世界300羽のうち20羽が飛来する。昔は渡り鳥で空が暗くなった程だ。

3.NGO総会(10月26〜27日、スンチョン)

 現地新聞報道ではNGO総会に156団体2000人が参加した。6大陸、31カ国の代表が参加した。壇上にはHealthy Wetlands, Healthy Peopleのスロ−ガンがある。ミヤンマーの発表は、同国を経由して中国とベンガル湾にガスパイプラインを敷設する大規模プロジェクトで、森林を伐採し住民を追いやっている。その半分の資金は韓国財閥デウー(大宇)である。発表者は軍事政権を批判しているのだから、勇気はあるが、生命の保障は心配である。日本からは沖縄泡瀬、諫早湾、上関原発等が報告された。日本弁護士連盟も大きな貢献を果たしている活動を紹介した。宣言案の議論では愛知県の辻淳夫さんが「抽象的な宣言でなく、締約国に湿地を具体的に保全させるものでなければならない」と訴えると拍手が起こった。次期COP11主催国はルーマニアであり、同国NGO代表が同国の黒海に注ぐ豊かなドナウ川デルタ湿地を報告した。ルーマニアでは韓国KFEMのような環境保全の全国組織を持っていない。NGO世界湿地会議の発足が確認された成果は大きい。

4.本会議(10月28日〜11月4日、チャンウオン)

 ラムサール条約COP10本会議の開会式にはラムサール事務局長Tiega氏がスローガンの意味を説明した。李明博大統領は、湿地保護は地球温暖化防止の課題と共通することを強調した。国連事務総長パンギムンは映像で会場に国連ミレニアム目標の達成を訴えた。COP9主催国のウガンダ代表が韓国代表にラムサール旗を引き継いだ。
 千葉からの参加者は2009年1月31日に韓国の経験を報告する会を予定している。

(JAWAN通信 No.92 2008年12月25日発行から転載)


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