カキ礁研究の前進に向けて
――日米カキ礁シンポジウムの報告

伊藤昌尚 日米カキ礁シンポジウム実行委員会事務局

 三番瀬保護団体は4月8日、日本と米国のカキ礁研究者を招き、「日米カキ礁シンポジウム」を和洋女子大学(市川市)にて開催しました。シンポジウムは150人を超す参加者があり盛会の中に終了いたしました。全国から多くの一般参加者と各分野の研究者や専門家が加わり充実した結果となりました。

シンポジウム討論(4月8日) シンポジウム会場(4月8日)

 このカキ礁に関するシンポジウム開催は、2004年に三番瀬猫実川河口域のカキ礁が発見されて以来、わたしたちの願望であり懸案となっておりました。
 2006年2月より準備に入りました。7月にはプロ・ナトゥーラ・ファンドに助成金の申請を行い、幸いにも助成金申請が認められ本格的な企画づくりに取り組みました。
 10月には準備会を開催し、三番瀬の自然環境の重要性とカキ礁の価値について広く県民と市民に呼びかけるシンポジウムが提案され、三番瀬で活動する8団体による実行委員会が立ちあがりました。日本ではカキ礁の研究はほとんど行われてこなかった経過を踏まえ、参加者の対象を研究者、専門家を含め、広く一般の方を目指すこととし、米国チェサピーク湾の研究者より最新のカキ礁研究の成果、子どもたちへの環境教育、漁業への視点などを学び、そしてカキ礁生態系の役割と機能に焦点をあてる講演を企画することを決めました。
 2007年4月、米国の東海岸バージニア州と西海岸ワシントン州の海外研究者3名の来日が実現しました。(財)日本自然保護協会のご尽力により、国内の研究者として日本ベントス学会会長の向井宏先生にご参加いただきました。また来賓として京都大学名誉教授、鎮西清高先生にお越しいただきました。
 4月8日の日米カキ礁シンポジウムに先がけて海外ゲストの方に6日は市川市猫実川河口沖、7日は船橋市海浜公園沖のカキ礁へご案内しました。晴天に恵まれ干潟の干出域も予想以上に広がりカキ礁の周りを観察しました。猫実側のカキ礁に若いカキの生息割合が大きい状態を即座に見てとり指摘されました。
 船橋海浜公園地先のカキ礁は緑のアオサに覆われているのが特徴です。猫実側のカキ礁の上がアオサで覆われたことはこの5年間の観察では皆無でしたので海の環境に違いが存在すると思われます。船橋海浜公園のカキ礁では、マーク先生とアラン先生が実践的な調査方法を実演してくれました。スコップでカキ礁を掘り下げて、順次採り出したカキを観察して生育の歴史を調べる作業です。猫実側のカキ礁でもこの試掘をぜひ実施するべきと懇切な助言を受けました。船橋側にはイソギンチャクが多く生息しており、ムラサキイガイの塊と同居しています。猫実側はケフサイソガニやウネナシトマヤガイが多数観察できます。両方のカキ礁をじっくりと観察できた様子で船橋側と猫実側のカキ礁の外観と生物相の違いを指摘され興味を持たれたようでした。

猫実側のカキ礁(4月6日) 船橋側のカキ礁(4月7日)

 シンポジウムでは海外ゲストよりカキ礁の濾過能力、再生産の要因、干潟の定着率、潮位の影響、生存率の実験などいろいろな調査や実験の発表があり会場の注目を集めました。
特に印象に残ったのは「底質の変化」と「脱窒の測定」に関しての報告です。
 ジェニファー先生は最新の研究結果にもとづいて「生物学的に非常に活発な窒素化合物の一つであるアンモニアの間隙水中濃度を測定しました。私たちはカキ礁がある所ではカキの排泄作用により、間隙水中のアンモニア濃度が上昇すると予測していました。しかし、実際にはカキ礁がある所ではアンモニア濃度が低下していたのです。これはいったいどういうことでしょうか。カキが生態系から窒素を除去する微生物活性を促進している可能性があると考えられます。これは特に富栄養化など人間の活動によってもたらされる余剰窒素を考える上で非常に重要なことです。」とカキ礁の脱窒機能を講演されました。とても興味深い知見を学ぶことができました。

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 この日米カキ礁シンポジウムが日本におけるカキ礁研究の前進とカキ礁生態系の位置づけを固めるはずみとなれば幸いです。シンポジウムは終了しましたが、シンポジウムで学んだことを三番瀬の保全のためにどのように活かしていくかが今後の課題です。実行委員会では現在、報告書づくりに取り組んでいます。9月末には報告書を発行できる見込みですのでご利用をお願いします。
 最後になりましたが、このシンポジウム開催のためにたくさんの個人や団体から後援や協賛金のご支援をいただきました。感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました。

(JAWAN通信 No.88 2007年9月15日発行から転載)


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