「国際湿地シンポジウムin吉野川」を終えて

山内美登利 日本野鳥の会徳島県支部共存部長

 日本野鳥の会徳島県支部と日本湿地ネットワークの主催で去る2月24日(土)徳島市内において「国際湿地シンポジウムin吉野川」を開催しました。
 日本野鳥の会徳島県支部では長年にわたり吉野川河口の保全に関し要望や提言を通じて自然保護活動に努力してきました。四国三郎と呼ばれ親しまれてきた吉野川をラムサール条約の登録湿地とする目標を掲げての国際シンポジウムでした。自然豊かな吉野川河口は「東アジア・オーストラリア地域におけるシギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」に既に登録されており、国際的に重要な湿地であることは言うまでもありません。

パク・チュンロク先生の講演
(写真:臼井恒夫)
渇水期の第十堰(2月25日)

 シンポジウムでは韓国からお招きしたパク・チュンロク先生(「湿地と鳥たちの友だち」委員長)は「ナクトンガン河口湿地の保全運動」と題し、韓国を代表する河口部でありながら鳴旨大橋建設事業、新港湾建設事業などの開発計画に曝され、5種類の保護法が存在しながら保全が確保できない深刻な状況を講演されました。
 東京大学の清野聡子さんは「日本の河口域の開発と管理の問題点」と題し、吉野川河口の自然や地場産業の場としてのすばらしさを強調し、「戦略的なアセスメント」が最も必要とされる河口と指摘しました。そして縦割り管理の間隙で崩壊するかけがえのない空間である河口の保全は、「市民・住民の力」にこそ問題解決を促す力があると持論を展開されました。
 主催団体として曽良寛武前支部長は韓国ナクトンガンと吉野川河口の置かれた環境の類似性を念頭におきながら、吉野川の自然生態系を保全する上で危惧される問題点を挙げて報告をしました。
 上流部から挙げれば、国営農地防災事業、第十堰可動化計画、東環状大橋建設、四国横断自動車道、沖洲海浜のマリンピア沖洲第二期工事があります。
 第十堰可動化計画は現在停止状態ですが、まだ完全な中止にはいたらず、国土交通省は選択肢のひとつとして残していると思われます。また東環状大橋の建設は河口から2kmの地点に建設中であり、河口干潟に大きな悪影響を及ぼすと考えられます。徳島県支部は当初から懸念を表明し、環境への負荷軽減を図るトンネル案などの代替案の検討を要望してきましたが聞き入れられませんでした。
 四国横断自動車道計画については沖洲海浜工事と連動しているので、自然保護に関わる県内市民団体と連名で事業者である西日本高速道路(株)と国土交通省にルート変更の提案要望書を提出し、渡河橋の建設中止を求めていますが、当局は受け入れがたいとする姿勢を崩しておらず今後粘り強い提案をしていくことになります。

パネルディスカッション(写真:臼井恒夫)

 後半のパネルディスカッションでは浅野正富さんの司会により、パク・チュンロク先生、姫野雅義さん、辻淳夫さん、井口利枝子さん、曽良寛武さんの各氏より韓国ナクトンガン河口と吉野川流域全体の保全をいかに進めていくべきかと活発な意見が交わされ、長期的な展望にたった吉野川の自然環境保全と賢明な利用を市民に呼びかける絶好の機会となりました。
 パネルディスカッション終了後、参加者一同でナクトンガン河口と吉野川河口のラムサール条約湿地への登録を目指して「吉野川宣言」を採択しました。
 このシンポジウムには120名以上のたくさんの方が参加して下さいました。開催を支援して下さった皆さまに心から感謝申し上げます。


吉野川河口(写真:曽良寛武)

(JAWAN通信 No.87 2007年4月25日発行から転載)