IUCNレッドリストが改訂
ヘラシギ、絶滅危惧IA類(CR)に指定

 日本湿地ネットワークは、IUCNのレッドリスト改訂で絶滅危惧IA類に指定されたヘラシギに関して、2008年5月19日、バードライフ・アジアと共同で下記のプレスリリースを発表しました。


【プレスリリース】

2008年5月19日
バードライフ・アジア 代表 市田則孝
日本湿地ネットワーク 運営委員・副代表 柏木 実

IUCNレッドリストが改訂 
ヘラシギ、絶滅危惧IA類(CR)に指定


日本にも毎年数羽がやってくるヘラシギが最も危険な状態にある。
ヘラシギは渡り性の水鳥でシギ・チドリ類に属する鳥である。くちばしの先がスプーンのように広がったスズメほどの小さな愛らしいその姿は、バードウォッチャーならずとも魅せられてしまいそうだ。生息するのはユーラシア大陸の東端のみであり、6月から7月にかけてシベリアの東端チュコト半島の沿岸のみで繁殖し、インド半島東海岸からインドシナ半島にかけての地域で越冬し、毎年日本・韓国・中国を渡る旅鳥である。わざわざこの鳥を見るためだけにタイやベトナムにやってくる欧米のバードウォッチャーも多い。

1970年代半ばには2,000-2,800番いと推定され、1980年代からIUCNレッドリストに挙げられロシア科学アカデミーを中心とした国際チーム(ヘラシギ回復チーム)が調査を継続してきた。チームには日本からも日本湿地ネットワークが継続して参加、これまでバードライフ・アジアを始め、日本経団連自然保護基金、トヨタ財団、WWFジャパンが助成金を通してこの調査を支えてきた。

2000年に始めた繁殖地調査では、繁殖地全体をカバーする個体数調査と繁殖番いの生態調査を行い、2005年1月から越冬地での調査を開始し、越冬生息地を発見し、個体数を確認する調査を行っている。日本や韓国の中継地ではシギ・チドリ類調査などに携わる人々から観察情報を収集してきた。日本の干潟には全個体の一部しか来ないが、多くの人々が注意深く観察し、殆どの渡来個体が観察され、重要なデータが蓄積されている。この結果、2000年以降、個体数は1000番い以下、400番い以下と減少傾向を示し、特に2007年6−7月の繁殖期チュコト自治区における調査では150番いの繁殖個体しか観測されなかった。つまり全個体数は1000羽を大きく下回ると考えられる。また、越冬地としては以前200個体を超える観察のあったバングラデシュでも2008年にはまったく観察がないなど10羽を大きく超える生息地の確認ができなかった。しかし2008年1月のミャンマーにおける調査において、ベンガル湾岸とマルタバン湾北岸において合計83羽の越冬個体が観察され、生息地の中心が推測されたこと、またタイ・ミャンマー・バングラデシュなど人々のネットワークができたこと等成果もあがっている。

日本湿地ネットワークの副代表柏木実は、今回レッドリストの改訂を機にヘラシギ回復チームやバードライフ・アジアなどが協力して作成中のボン条約(移動性生物条約)のヘラシギ保全計画が一日も早く確定され、日本を含めたフライウェイの国々の協力による、政府・研究者・保護団体・地域住民一体の保全活動の取り組みが期待されると語った。

ヘラシギの雛
(C)バードライフ・ライブラリー
2003年7月にチュコト南部で薄緑色のフラッグをつけた雛が成鳥となり、2005年9月に福井県新湊市海老江海岸で観察された
撮影:富山県射水市海老江海岸
(有)スペースプロデュース提供