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鉄鋼スラグ使用で役立たずになったダム

〜千葉県営の郡ダム〜


図7-1

 全国のあちこちで鉄鋼スラグ(鉱滓)を使った藻場造成の実証実験がすすんでいる。ところが、群馬県長野原町では八ッ場ダムの移転代替地造成に使われた鉄鋼スラグから六価クロムやフッ素などの有害物質が検出され、大きな問題になった。
 そんな危険な鉄鋼スラグを藻場造成に使うことについて、環境省はこう回答した。「実証実験は環境への影響を調べながらおこなわれているので問題ない」。日本の環境省はほんとうにいい加減である。
 千葉県君津市の郡(こおり)ダムは鉄鋼スラグを利用してつくられた。郡ダムは、八幡製鉄(現在の新日鉄住金)君津製鉄所に工業用水を供給するために千葉県がつくった。場所は君津市郡、完成は1972年12月である。導水管を用い、二級河川の湊川から水をひいている。工業用水は冷却、洗浄、温度調節などに使われる。
 ところが完成後、このダムは使いものにならないことがわかった。ダムにたまった水は工業用水に使えなかったのである。原因は君津製鉄所から出る鉄鋼スラグを使ったことだった。魚も棲めない。大失敗である。以来45年たつが、郡ダムはまったく使われていない。
 千葉県水道局工業用水部のホームページには、「(木更津南部地区工業用水道事業の)水源は、県内河川の開発による工業用水専用の豊英(とよふさ)ダム及び郡ダムによりまかなわれています」と書かれている。しかし、同事業でじっさいに使われているのは豊英ダムだけである。郡ダムは、貯水しているものの使い道がない。郡ダムは“無駄なダム”の典型となっている。
 千葉県工業用水道条例は、工業用水の水質基準として次の3項目をかかげている。①水温:常温、②濁度:15度以下、③pH:6.0以上8.5以下。鉄鋼スラグを使ったダムの水は、この条件を満たすことができない。

写真7-1
鉄鋼スラグを使ったため、無用の長物となった郡ダム=2015年1月18日撮影
(文・写真/中山敏則)
(JAWAN通信 No.120 2017年8月30日発行から転載)

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