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■「天草と辺野古の海を守る 講演会」の講演要旨

御所浦を守るため最後までたたかう

御所浦まちづくり協議会 会長 森 恵慈さん

 御所浦町は熊本県で唯一の離島の町である。3つの有人島(御所浦島、牧島、横浦島)を含む18の島々からなる。不知火海(八代海)に浮かぶ、たいへん景色のいいところである。
 御所浦町の人口は平成27年国勢調査結果で2735人である。町は2006(平成18)年に本渡市や牛深市、天草町などと合併し、天草市となった。主な産業は漁業である。最近は「恐竜の島」をうたい文句にし、恐竜によってまちおこしをしている。そのような自然豊かな御所浦町に、ふってわいたように採石場問題がでてきた。

*採石業者のやりたい放題

 私たちが採石場の現状を知るきっかけになったのは昨年5月17日である。天草市から話があった。3月31日付けで有限会社山口海運から県に採石認可の更新申請がだされ、その件で市に意見照会があった、とのことである。
 御所浦での採石は昭和52年からはじまった。その後40年つづいている。現在は、稼働している採石場が2カ所、 廃業した跡地が1カ所ある。
 これらの採石場は御所浦島の南東部、つまり水俣側にある。御所浦島の住民からは採石場がみえない。したがって、業者のやりたい放題という状況で採石がおこなわれてきた。
 水俣にいる私の親戚からこう言われた。
 「御所浦はなんだ! 島を売らなければメシを食えんとかい」
 いま問題になっているのは山口海運の採石場である。山口海運は昭和53年から約40年にわたって採石をつづけている。
 熊本県天草広域本部(天草地域振興局)から「土砂災害防止法に基づく現地調査のお願い」という文書が御所浦町の全世帯に送られてきた。その文書に地図が添付されている。地図のなかに、これまで私たちがまったく気づかなかった「湖」(巨大な穴)ができている。これをみて私たちはビックリした。しかも、「湖」のなかには不知火海の浚渫土砂(ヘドロ)と製鋼スラグが入れられている。それを聞いて、私たちはさらに驚いた。

*7割以上の2000人が反対署名

 これらの問題をめぐって、私たちは昨年からいろいろとりくんできた。
 昨年5月17日の天草市からの話を受けて6月8日、御所浦まちづくり協議会の第1回会合をひらき、山口海運の岩石採取計画について意見を交換した。出席者の全員が「絶対反対」という意見だった。「採石はもうダメだ」「製鋼スラグを入れるなんてもってのほかだ」という声もだされた。6月19日は御所浦地区行政区長会の研修会において意見交換がおこなわれた。ここでも全員が「絶対反対」だった。
 6月24日、私たちにたいして県から説明があった。採石許可を担当するエネルギー政策課である。説明を聞くと、県は“許可ありき”である。採石絶対反対の私たちと話があうわけがない。話は平行線におわった。
 6月27日、私たちは天草市の中村五木市長と面談し、採石に反対する意見書を提出してほしい旨の要望書を提出した。
 7月4日、天草市長が現場を視察した。私たちも同行した。市長も私たちもはじめて現場に足を踏み入れた。採石跡には緑化がされていない。巨大な穴が掘ってある。
 県の説明では、この穴は幅が約200mある。深さは、いちばん深いところで37mぐらい、とのことだった。それくらい大きく掘った穴のなかにヘドロと製鋼スラグが入っている。市長も
 「これはひどいな」という感想をもらした。
 7月15日、県のエネルギー政策課と循環社会推進課がふたたび説明にきた。循環社会推進課は、ヘドロも製鋼スラグも「問題ない」と言う。私たちと話がおりあうわけがない。
 7月25日、私たちは中村市長と面談した。天草市から提出する意見書に「反対」を明記してほしい、と要望した。ところが市長は「反対の意見書はだせない」と言う。理由を聞いても答えない。ほかから圧力がかかったのでないか、と私たちは感じた。「ではどうするのか」と聞いたら、「地元の意見を尊重する、ということで意見書を提出する」という返事だった。
 私たちはすぐ御所浦に帰り、対策会議をひらいた。議論の結果、署名活動をすすめることをきめた。翌26日から1週間で御所浦町の2000人から署名をもらった。町民の7割以上である。区長さんたちにお願いし、一軒一軒まわって署名を集めた。

*誓約書をまったく無視

 採石場の近くには、天草市の指定文化財となっている帆柱石(ほばしらいし)がある。
 漁師はこう証言している。かつては、帆柱石と陸地の間は船舶が航行可能であった。しかし業者が勝手に土砂を押しやったため、そこが陸つづきになり、航行できなくなってしまった。業者は帆柱石も壊そうとした。それを漁師がそれをみつけて破壊を止めた──と。
 採石場の沖は、かつてはクルマエビなどの漁場としてとてもいいところだった。ところが、最近はまったく獲れなくなった、と漁師さんたちは嘆いている。その原因は土砂流出ではないか、と私たちはみている。天草市に調査を要請している。
 8月5日、御所浦町民2000人の反対署名を持って「(有)山口海運の岩石採取計画の認可申請に関する申入書」を県に提出した。提出後、意見のやりとりをした。県は「計画が適法であれば認可する」と言う。私たちは、「この数十年間、山口海運は定められた方法で採掘していない。約束事も守っていない。そういうものに許可していいのか」と主張した。ところが県は、自分たちの都合が悪くなるとだまってしまう。
 山口海運は平成14年、当時の御所浦町に誓約書を提出した。①上部尾根を越えない。②採取計画の採掘面は計画にそって安定な斜面を成形する。③掘削後は順次植樹をおこない、緑化をはかる。④汚濁水の流出に注意して調整池の管理につとめる。⑤地元との協調をはかりながら、採掘につとめる──というものである。
 ところが、この5項目の誓約を山口海運はまったく守っていない。それを県も知っている。それなのに許可をだせるのか。私たちは県の姿勢を追及した。しかし、県は「適法であれば認可する」と言いつづけた。
 話が先にすすまないので、私たちは引かなかった。そうこうするうちに、局長が「この問題は検討する」と言った。それでやっと、私たちも引きさがった。

*「わあ、13.5pHもある」

 8月8日、天草選挙区の3人の県議会議員に現場を視察してもらった。県もそれに同行したので、現地で県と話しあった。県は「認可する」と言う。私たちは「認可はダメだ」と主張する。ここでも平行線だった。ところが、間にはいった3県議はだまったまま何も言わない。
 山口海運の採石場には、製鋼スラグが4日おきぐらいに700?程度ずつ入っている。3月30日から8月26日まで41回、この時点で2万9000?の製鋼スラグが入った。それを、私たちは山の上から観察している。ところが、このように製鋼スラグを搬入するのを県は1回もみていない。
 8月30日は環境省九州地方環境事務所に行った。状況を説明したら、「これはちょっとひどいな」と答えた。ただ、「一般廃棄物は市町村、産業廃棄物は県に権限があるので、私たちは言えない」とのことだった。「最終的には、科学的証拠をみつけて裁判あるいは刑事告訴しかない」という話をされた。私たちは、その日のまちづくり協議会でこの問題を協議した。「提訴もやむを得ない」という話になった。基金をとりくずしてでも裁判やむなし、ということになった。
 まちづくり協議会は300万円の基金をもっていた。そのうち200万円はこの活動資金に使ってもいい。ただし地域住民への説明をしてほしい。そして御所浦町の内外に寄付を募る──。そういうことをきめていただいた。
 9月5日、山の上と船の両方から現場をみた。「湖」から流れている水を調べたら、やはり強アルカリである。10〜11pHだった。保健所にすぐ電話し、「保健所で測ってほしい」と要請した。しかし、保健所は検査をしたくないようだった。「検査機器は私たちが用意する。私たちが船で迎えにいくので、すぐに現場にきてほしい」と言った。そうしたら、迎えの船で職員がやってきた。
 職員が測ったら、やはり10〜11pHという結果だった。その後、私たちは水質検査を5回おこなった。つねにpHの値が高い。そのつど保健所に連絡しているが、県はなんの対策も講じない。
 私たちは、8月30日のまちづくり協議会でだされた要請にもとづき、9月12日から11月4日まで9回、御所浦地区を説明してまわった。住民からは「寄付するからがんばって」という声も寄せられた。
 9月23日、県による環境調査がおこなわれた。私たちも立ち会った。アルカリを調べた県は、「わあ、13.5pHもある」と、びっくりしたような声をだした。県も、まさかそこまででるとは思っていなかった。
 その後、県は環境調査を7回おこなった。ところが県は、つねに「人に有害な環境基準を超えていない」「強アルカリを薄めて流せば問題ない」というような説明をする。私たちは「ふざけるな」と言うが、県はそういう説明をする。
 「湖」の周囲には鳥が1羽も来ない。普通だったら、冬はカモ類などがたくさんやってくる。ところがここには1羽も来ない。イノシシも寄りつかない。そういう状況なのに、県は「なにも問題ない」と言う。「ではなぜそういうふうに動物が寄りつかないのか」ということを、私たちはつねに県に言っている。そういう話になると、県はなにもしゃべらなくなる。だまってしまう。
9月29日は熊本県議会経済環境常任委員会で請願趣旨を説明した。翌30日は、地元漁協の役員会でスライドをみせながら説明した。漁協の役員も13.5pHという調査結果にびっくりしたようだった。「環境調査がすむまで桟橋の使用を止めようか」という話もでた。
 11月22日、採石事業にかんする住民説明会があった。説明者は県である。354人の住民が参加した。住民の関心は非常に高かった。このときも、住民と県のやりとりは聞いていておかしいぐらいだった。強アルカリについて、県は「温泉も強アルカリですよ」と言う。御所浦の町民は怒った。「それなら、あんたはあそこで泳いでみろ」という意見もでた。話があうわけがない。地元は「反対」、県は「問題ない」と言いつづけている。
 「なんかあったとき、あんたたちが責任を負うのか」と聞いても、県は「責任を負う」とは言わない。だまったままである。

*一日も早く終掘するようがんばりたい

 今年も、私たちはいろいろと動いている。最近になって県は、なんとか話しあいで解決したいと思ってきたようだ。このまえは副知事がでてきた。
 私たちはこう言った。「話しあうためには条件がある。埋め戻しのために製鋼スラグやヘドロを他所(よそ)からもってきたらダメだ。それをさせないということであれば、話しあいに応じてもいい」と。「一日も早く修復させることを県も考えてほしい」とも言った。
 「いまの現場をみて、これ以上掘るところがあるのか。県はどこを掘らせるつもりなのか」。私たちはそう主張している。
 県も、いままでのようには私たちに対応しない。業者をおさえる立場になってきたような感じもする。
 最後に、私たちがこの活動をつづけて感じたことだが、天草市は地元の住民を守る立場でありながら積極性に欠ける。「御所浦は天草市ではないのか」と言いたい。合併前の御所浦町であれば、町をあげてこの問題にとりくんでいるはずだ。県や県議にたいしてもっと有利に話ができたのではないか、と思う。
 県も、自分たちの責任問題にならないように、業者サイドで、業者といっしょになって、悪いところは隠して問題を表にださないようにしているように思う。製鋼スラグは暴露状態になっている。それを私たちが指摘しても、業者にたいしてなにも言わない。
 そして天草選挙区の3県議である。口では「私たちは地元のみなさんの味方です」と言う。ところが、そのような行動はまったくみえない。私たちが県議会に提出している請願書は、これまで3回、継続審議になっている。
 最近は御所浦町の票が減っているので、御所浦を軽くみているのではないか、と思う。やはり力をもたなければいけない、という思いを強くしている。
 私たちはここで引くわけにはいかない。これからも活動していくし、たたかっていきたい。御所浦の採石が一日も早く終掘(しゅうくつ)するようにがんばりたい。みなさんの応援をよろしくお願いします。

(文・写真/中山敏則)
(JAWAN通信 No.120 2017年8月30日発行から転載)

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