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■自然と環境を守る交流会の講演(要旨)

湿地保全への多面的アプローチ

法政大学 人間環境学部教授 高田雅之さん

写真8-1
高田雅之さん

 日本にはさまざまなタイプの湿地(干潟や湿原など)がある。そのような湿地を守るためには、試行錯誤しながらも、多面的な方法で進めなければならない。
 ラムサール条約は、湿地を守る国際条約である。その前文に、湿地は経済上、文化上、科学上、レクリエーション上、大きな価値を有する資源である、と書いてある。しかし、「湿地の文化」とはいったいなにかということはあまり議論されていない。
 人と湿地との持続的なかかわりの姿そのものを「湿地の文化」という。それでは、日本やアジアではいったいどういうものを「湿地の文化」というかについて、日本国際湿地保全連合(WIJ)が中心となって日本とアジアで湿地の文化事例を調査し、報告書にまとめた。米をつくることも、魚をとることも湿地の文化である。湿地が遠い存在ではなくて身近な存在だということを多くの人が理解するうえで、こういう取り組みも有効なアプローチの仕方ではないかと思う。
 日本に湿地がどれくらいあるかというデータベースを整備することも必要だ。アメリカでは、ナショナル・ウエットランド・インベントリ(湿地目録)というものが、国家レベルで組織的・計画的に整備されていて、どこに、どういうタイプの湿地があるかという情報を得ることができる。地図上や航空写真上でも見ることができる。
 こういうデータベースが整備されていると、湿地が過去からどのように変化してきたか、どこがリスクが高いか、どこを優先的に保全すべであるか、ということを科学的に明らかにできる。カナダのオンタリオ州でも湿地を評価したデータベースが作られている。
 ところが、こういうことが日本ではなかなか進んでいない。日本には「重要湿地500」が選定されている。この「重要湿地」は、日本におけるひとつのインベントリ(目録)となっているが、データベースとして必ずしも十分なデータが保有されていない。これをしっかり整備することが必要だ。
 湿地を保全するやり方のひとつとして有効だと思うのは、地域の計画のなかに貴重な自然を位置づけてもらうことだ。北海道では、北海道環境保全指針において「すぐれた自然地域」をリストアップし、開発を抑制する効果を果たしたことがある。また兵庫県三田市の生態系レッドデータブックという事例もある。
 また千葉県の成東湿原や愛知県の葦毛(いもう)湿原では、大きな費用をかけずに地域の手によって保全管理がされている。こういう事例も参考にしながら、多面的な方法で湿地を守っていくことが重要ではないだろうか。

(JAWAN通信 No.114 2016年2月20日発行から転載)

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