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減少する日本の野鳥

千葉県野鳥の会 田久保晴孝

*水鳥の減少

 私はシギ・チドリ類の調査を45年近く続けている。
 シギ・チドリ類というのは、オオソリハシシギ、ハマシギ、キアシシギ、キョウジョシギ、メダイチドリ、シロチドリなどである。チドリ目のなかには、ユリカモメやコアジサシといったカモメ科の鳥なども含まれる。
 シギ・チドリ類は主に干潟にいる。だから私は、干潟が開発される場所でシギ・チドリを見ていた。シギ・チドリのいた干潟が開発でつぶされると、鳥たちは隣の干潟に移る。そういうことがくりかえされてき
 きた。
 かつて、東京湾奥部に位置する千葉県市川市の新浜(しんはま)に広大な干潟と湿地があった。当時、新浜の干潟は日本最大級の野鳥渡来地となっていた。そこを埋め立てるという計画が持ち上がった。そのため、1967年に「新浜を守る会」が結成され、埋め立て反対運動が起きた。これがきっかけとなり、その後、干潟の埋め立てに反対する運動が全国に広がった。そういう流れの中で、私は鳥をみてきた。
 シギ・チドリ類の全国調査も1974年からはじまった。全国規模で鳥の調査が40年前からおこなわれているのはシギ・チドリだけだ。
 この調査によると、1974年から2013年までにシギ・チドリ類は全国で4割減少した。これは、全国で干潟が4割減っているこ
 ととピタリ一致する。東京湾では9割も減ったが、これも東京湾の干潟が9割減ったことと重なる。シギ・チドリが減った主な原因は干潟の減少がいちばん大きいと思われる。
 シギ・チドリ類のなかでいちばん多いのはハマシギである。シギ・チドリ類の8割くらいを占めている。シギ・チドリが多いか少ないかは、ハマシギの数を調べればわかる。ハマシギの数は干潟の減少に比例し、全国で6割、東京湾で1割(10分の1)に減ってしまった。
 現在、シギ・チドリ類がいちばん多く飛来する場所は有明海の大授搦(だいじゅがらみ)である。
 この干潟は佐賀県にある。諫早湾(長崎県)の隣である。諫早湾は一時、シギ・チドリの渡来数が全国一になった。ところが、全国一になった次の年の1997年4月に「ギロチン」が落とされ、諫早干潟がつぶされてしまった。そのため、その後は大授搦が全国一になった。
 シロチドリは、草が生えないような砂浜で水たまりが少しあるような場所で繁殖する。東京湾では、埋め立てが進んでいた時期にシロチドリやコアジサシの繁殖地ができた。ところが、埋め立て地が草原になり、工場や建物、道路などができてしまったら、繁殖地がなくなってしまった。
 たとえば谷津干潟(習志野市)では、1976年にシロチドリが3000羽いた。しかし、つい最近は1羽も確認できない日がほとんどである。それくらい激減してしまった。そういう事態になって、環境省はやっとシロチドリを絶滅危惧種に指定した。  同じように、東京湾岸ではコアジサシの繁殖も激減した。かつては、東京湾岸で数万羽繁殖していたのが、いまは巣立った若鳥がまったくみられなくなった。巣をつくってヒナを孵化(ふか)しても、ヒナはカラスやヘビ、猛禽類に食われてしまう。コアジサシを繁殖させるため、千葉市が埋め立て地に更地を用意したが、コアジサシはそこを利用しない。
 それから、ツルシギやタカブシギは10分の1に減少した。干潟の後背地にある湿田のアシ原や沼が激減したからだ。ツルシギやタカブシギは、これらの場所を利用していた。
 たとえば前述の新浜は、かつて3000羽ものツルシギが渡来していたといわれているが、いまはゼロになった。湿田・アシ原は行徳保護区以外にはない。
 このほか、主に湿田・湿地でエサをとる鳥は軒並み減少している。バン、ヨシゴイ、サギ類、タシギなどである。バンはかつて、そこらへんにいたが、ものすごい勢いで減ってしまった。原因は開発による湿田の激減である。

写真8-1
激減したシロチドリ
図8-1

*里の鳥の減少

 里の鳥も減少している。ツバメ、ヒバリ、オオヨシキリ、セッカなどである。ツバメの減少要因は、ツバメは湿地が減少したことや、カラスによってヒナや卵を食べられることである。ヒバリは畑や草地の減少、オオヨシキリとセッカはアシ原や草地の減少が原因である。ツバメとヒバリは絶滅危惧種に指定されている。
 スズメも、草地、水田、繁殖場が減ったため、減少しつつある。

*夏鳥

 夏鳥もいたるところで減っていると言われている。アカモズ、サンショウクイ、ツバメ、チゴモズ、サンコウチョウ、アカショウビン、アオバズクなどである。
 減少の原因として、日本で開発が進んでいるほかに、東アジアや東南アジアといった越冬地の開発が影響していると言われている。また、農薬の影響も大きい。

*高山や島の鳥の減少

 高山や島の鳥も減少している。ライチョウはヒナをカラスやキツネに食べられたりする。高山のカラスやキツネは人間が連れていっている。ウミガラス(オロロンチョウ)は、ヒナをカラスやカモメに食べられるほか、漁網にかかって殺されることも減少の原因となっている。
 ヤンバルクイナは、森林開発のほかに、マングースやネコに食べられることが減少の原因となっている。人間がよかれとおもってやったことが裏目にでている。

*野鳥減少の主な原因

 野鳥減少の主な原因を整理するとこうなる。
 ①干潟や湿地の埋め立て、干拓
 ②圃場整備による乾田化や水路の暗渠化、ため池の埋め立て
 ③流域下水道整備に伴い、小さい川に水が流れなくなったこと
 ④里山などの森林や草地の放置と宅地化
 ⑤ダムの建設や、河川・海岸の護岸整備
 ⑥農薬の使用
 ⑦漁業による漁網、刺し網、定置網の使用
 ⑧イヌ、ネコ、シカ、カラス、マングースなど、他の動物による食害
 ⑨東アジア、東南アジアの開発
 ⑩地球温暖化

*増えている鳥

 他方で、増えている鳥もいる。
 たとえばカワウである。カワウは1950年代から70年代にかけて減ったが、80年代以降は急増している。カワウのエサは魚であるが、増えた理由はよくわかっていない。
 マガンとヒシクイは、かつて人間が鉄砲で撃っていたが、天然記念物になって保護されたから増えるようになった。ハクセキレイは、エサの多様化が原因で増えたと言われている。ハシブトガラスはゴミやドッグフードなどのエサが増えたため増加傾向にある。このほか、果実食のムクドリやヒヨドリ、キジバトも増えている。
 1950年代以降の開発(干潟の埋め立てなどの自然破壊)により、日本は所得が増えて便利になったが、ツバメやヒバリ、スズメなど身近にいた野鳥たちも見られなくなっている。
 これからは、埋め立て地や干拓地を元の干潟・湿地に復元したり、乾田を冬水たんぼや夏水たんぼにする、ラムサール条約登録湿地を増やすなどの運動を進めていきましょう。
 
 自然を離れて豊かさはない
 三番瀬をラムサール条約登録湿地に!

(JAWAN通信 No.113 2015年11月20日発行から転載)

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