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見直しされたけど、危機続く中池見湿地

〜シンポジウム「ラムサール条約湿地の守り方最前線」〜

牛野くみ子

 「ラムサール条約湿地の守り方最前線〜中池見湿地・北陸新幹線問題からの発信〜」と題したシンポジウムが10月12日、都内で開かれた。主催は日本自然保護協会である。

■北陸新幹線ルートをめぐって

 ご存知のように、中池見湿地は2012年7月、ラムサール条約湿地に登録されると同時に湿地内を北陸新幹線が貫通するという計画が公表された。そのため、「モントルーレコード」(生態学的特徴が変化する可能性がある湿地)も手にしてしまった。
 開発は、条約湿地にもおかまいなく迫ってくる。
 当日は、どうしたら条約湿地を守ることができるのか。保護活動と国際機関との新たな連携、そして制度的な課題とは何かが話し合われた。
 最初に、中池見湿地の素晴らしい映像が流された。73種類のトンボ、カヤネズミが葉っぱをさいてつくった巣、秋の渡りのノジコの群れなど、自然いっぱいのシーンに心が和んだ。
 次に、日本自然保護協会の福田真由子さんが中池見湿地の歴史を話した。
 「中池見湿地は、市街地に近い所にあるにもかかわらず、地形が袋状になっているので袋状埋積谷(ふくろじょうまいせきこく)と呼ばれ、10万年の歴史を持つ。40mを超える泥炭層は、世界的に学術上重要とされている。90年代、大阪ガスは買収した土地にLNG基地を予定していたが、NGOや生態学者の強い保護運動により、正式に中止し、敦賀市に寄付した。
 いま問題になっている北陸新幹線のルートについてはこう話した。
 「当初、環境アセスメントが行われたときのルート〔アセスルート〕は、生態系豊かな『うしろ谷』の外側を通過するものだった。しかし2012年8月に公表されたルートは、アセスルートより150mも湿地寄りになり、『うしろ谷』を貫通することになった。このルートが国土交通大臣に認可された〔認可ルート〕。鉄道・建設運輸施設整備支援機構に湿地の重要性を訴えても、『(認可ルートは)変更しない』の一点張りだった」
 「2015年5月、認可ルートが見直しされた。それはIUCN(国際自然保護連合)の協力が大きかった。2014年3月にはラムサール事務局長、そして12月には泥炭地研究者のマーセルさんを招聘(しょうへい)してシンポジウムを開催した。マーセルさんは、アセスルートや認可ルートにこだわらず、第3のルートを考えよ、と話した。翌15年3月、ジャパンタイムズも影響が大きいと報じた」。
 NPO法人ウエットランド中池見の笹木智恵子さんは「最悪のルートは脱したが、見えないところをどう守るか。湿地の水が枯れる。どこから水を持ってくるか。専門家も、水が枯れるとどうなるか予測もつかないと言っている」と話し、湿地の水の重要性を訴えた。

写真4-1
中池見付近の北陸新幹線ルート

■「北陸新幹線は不要」の発言も

 講演が一段落したとき、敦賀市議会議員のKさんがこう質問した。
 「認可ルート変更に伴い、自然保護協会は、事業者が専門家会議を設置したことや認可ルートを変更したことは評価に値するとして『ありがとうキャンペーン』を企画した。だが、私たちは北陸新幹線は不要と思っている。評価するということは、鉄道機構にお墨付きを与えることになる。トンネルを掘れば水環境にどんな影響が出るか、有識者を呼んでシンポジウムを開いてほしい」
 この質問に対し、福田さんは
 「一度認可したことを変更するというのはたいへんなことである。認可ルートを変更したことは評価できる。土木関係者のシンポジウムはイメージがつかない。解決策はこれからだ」と応えた。
 次に日本自然保護協会の国際担当である道家哲平さんは、中池見湿地保全のために国際的機関の協力を進めてきたことを話した。
 ラムサール条約事務局長や泥炭地研究家のマーセルさんを招くため、スイスまで出かけて中池見湿地の問題を伝え、協力依頼したことを話した。
 「人為的影響が起こり、起こりつつある、起こる可能性が高い湿地の状況を報告する」通報者の重要性を話した。
 最後に、筑波大学大学院の吉田正人教授は、環境影響評価(アセスメント)制度や行政間のコミュニケーションの問題などについて話をした。
 たとえば、環境影響評価書が確定した後は、300m以内なら「軽微な変更」と認められている。そもそも環境省に通知の義務もない。評価委員会を設置し、市民側もモニタリングをいっしょに行い、議論してゆく重要性を強調した。
 

■ラムサール条約湿地を守るために

 パネルディスカッションには、「日本雁を保護する会」会長の呉地正行さんも加わった。
 呉地さんは「条約湿地を守るために何が必要か。それは市民と関係者の役割である」とし、こう述べた。
 「伊豆沼・内沼では、みやぎ県北高速幹線道路が沼の北側を通るということであった。県に委員会を設ける義務はないが、平成3年から21年まで、影響が出れば工事を止めるという前提で、専門家と地域の人を加えた環境委員会をつくった。土木の人は環境には関心がなかったが、話し合ううちに意識が変わっていった。委員会の設置を提案した」
 吉田正人さんは、「環境影響評価法が改正され、事前だけでなく事後調査も必要となった」とし、「中池見湿地はどのくらい影響が出るか分からない、不確実性のあるものはすぐ対策を練って対応することが大事」と述べた。
 道家哲平さんは、「モニタリング調査は対策を活かす前提で行う。問題が出たら“ちょっと待って”と監査し、管理計画をつくって実施することが必要」と話し、ラムサール条約は市民が育ててきた条約であることを強調した。
 笹木智恵子さんは、「モニタリング調査は市民でもできるし、その重要性も認識している。導電率を使用し、融雪剤の使用で数値が上がっていることも把握している。自然に素直な生き方をしたい」と話した。
 最後に吉田正人さんは、湿地保全法の必要性を話し、「情報公開やコミュニケーションをはかっていくことが『賢明な利用』といえるのでないか」と締めくくった。

(JAWAN通信 No.113 2015年11月20日発行から転載)

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