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東京湾三番瀬の展望

牛野くみ子 (千葉の干潟を守る会副代表)

生きものの豊かな三番瀬

 東京湾奥に広がる三番瀬は、市川、船橋、浦安、習志野市の埋め立て地に囲まれた1800 ヘクタールの干潟・浅瀬で、人びとのオアシスになっている。
 砂質が広がる船橋側では、アサリを主とした貝類、コメツキガニ、ガザミ等の甲殻類、ハゼ、ボラ等の魚類の産卵場、生育場である。
 泥質が広がる猫実川河口域( 市川側) には、ヤマトオサガニ、5000 平米のカキ礁と独自の生物多様性を誇っている。特に3 〜 4 月頃に、10 円玉ぐらいのイシガレイを見ることが出来る。この頃には既に目は頭の右側によっている。このイシガレイは三番瀬で育ち、三浦半島から相模湾へと巣立っていく。
 埋立計画があったとき、神奈川県水産技術センターの主任研究員から「三番瀬が埋め立てられたらイシガレイがとれなくなる。埋立反対頑張ってね」と言われた。現在は「三番瀬のラムサール登録は、東京湾全体の自然再生の大きな推進力になる。是非とも頑張ってください」と言われている。
 干潟にはシギやチドリがやってくる。チドリの仲間であるミヤコドリ。日本に飛来する半分以上(200 羽) が餌を求めて三番瀬にやってくる。スズガモは少ないときでも3 万羽はくだらない。
 このように多くの鳥類、魚類を養っているのは、豊富な底生動物、プランクトン、小型甲殻類等が多く、これらの生物が東京湾の水質浄化にも役立っている。三番瀬には鳥類、魚類だけでなく多くの人も潮干狩り、ハゼ釣りにとやってくる。
 ここではラムサール条約が謳う「賢明な利用」がなされている。

ラムサール条約登録の条件

ラムサール条約に登録するための条件は国内では3 つある。
1.国際的に重要な湿地であること
 9 つの基準があり、いずれかに該当すればいい。三番瀬は4 つ満たしている。
2.国の法律( 自然公園法、鳥獣保護法など)により、将来にわたって自然環境の保全がはかられること
 環境省では三番瀬を「国指定鳥獣保護区」に予定し、2002 年から2008 年までの6 年間で2 億2 千万円の補助金が交付された。
しかし、県が積極的に動かないのでうちきられた。
3.地元自治体などの登録への賛意が得られること
 3 つの条件の中、1、2 はクリアーしていると考えられる。3 が登録を阻んでいる。

それぞれの思惑

 船橋漁協はラムサール登録賛成の意を表していたが、組合長が代わった昨年、「ラムサール登録よりも漁場再生が先」と一変してしまった。しかし、漁場再生の中身をはっきりと示していない。
 一方、県も通常の漁業においては、漁場再生とラムサール条約登録は抵触しないことを認めているが、通常以外というのは何かと質しても答えない。
 三番瀬には他にも2 つの漁協がある。個人的に話はするが、組織としての話し合いは拒絶している。
 また市川市は、「条約は時期尚早」の立場を崩していない。
 その考えの裏には、JR 市川塩浜駅から海にかけて、再開発(まちづくり)計画を進め、その先に人工干潟を作る方針がある。東京のお台場のようにすることで、人びとが大勢やってくれば、地域活性化につながると考えている。
 県は、漁協や市川市の言い分を口実に、三番瀬に第2 湾岸道路を通すというのが狙い。
 ラムサール条約に登録されてしまえば、一定の開発行為には環境省の許可が要る。だからラムサール条約には消極的だ。
 こういった勢力が私たちの前に立ちはだかっている。

潮干狩りでにぎわう三番瀬船橋海浜公園

これからの展望

 東京湾の干潟・浅瀬が90%以上埋め立てられた今日、私たちは残る三番瀬を「生きものの共有財産である海をこれ以上狭めるな」、「海はみんなのもの」を主張し、保全を訴えてきた。
 埋立計画があったときは埋立反対の署名を、30 万余を集め、白紙撤回を勝ち取った。
 現在、2015 年ウルグアイで開催されるラムサール条約締約国会議に向け、ラムサール登録の署名を開始している。JAWAN のアドバイザーをはじめ、多くの方から呼びかけ人として名を連ねてもらっている。また、県民にアピールするためのパンフレットも作る予定で進んでいる。
 三番瀬の漁業を悪化させる原因の一つに江戸川放水路からの出水がある。また、これまでの埋立により、浚渫( 土砂採取) をしたことで沖には30 mもの大きな穴が出現。それが青潮を生み出している。これらの対策では漁業者と一緒に運動が出来ると思っている。
 更に、継続的に漁業が行われることを支援し、観光資源として発展することにも、お手伝いが出来ると思っている。
 ここにきて、市川市の思惑が通り一遍には進んでいないことも分かった。
 現在、塩浜地区の「にぎわいの街づくり」予定地には大型流通施設が次々と建設されている。様々な理由により、土地区画整理事業の事業認定申請が出せないと言うことで、まちづくり計画は実質的に破綻状態にある。
 人口減少に伴い、交通量も減ってきている。これ以上海を潰して、人工干潟や道路を造ることを私たちは許さない。埋立で泣いたのは人だけではない。幾多の海の生物が命を落としたことか。
 道理は必ず通ることを信じて、これからも様々な運動を三番瀬保全のため展開していく覚悟である。(2013.5.7)

(JAWAN通信 No.105号 2013年6月21日発行から転載)

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