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ラムサール条約湿地

「宮島沼における保全と
 ワイズユースの取り組み」

牛山 克巳 (宮島沼水鳥・湿地センター)

 北海道中央部に位置する宮島沼は、広大な田園地帯に残された水面積僅か25ha ほどの小さな沼です。毎年秋と春、渡りの途中に多くの水鳥が羽を休める場所として、2002 年11 月にラムサール条約に登録されました。
 代表的な水鳥であるマガンの飛来数は最大7万5千羽にのぼり、朝夕の飛び立ちとねぐら入りの、空を覆う大群とその鳴き声は圧巻です。これだけのマガンを、これ程間近で体感できる場所は、世界でも宮島沼だけといえます。
 宮島沼は小さく、人間の活動域に囲まれているため、人と自然の軋轢が生じやすい特徴があります。例えば、マガンが生長途中の小麦の葉を食べることによって生じる食害問題や、来訪者がマガンに接近しすぎることによって与えるストレスなどが課題としてあげられます。

水田に囲まれた宮島沼(7月)

 こうした課題に総合的な見地から取り組み、宮島沼の保全とワイズユースを推進し、宮島沼の自然を将来にわたって継承していくことを目的に「宮島沼保全活用計画」が2002 年に策定されています。この計画は来年には計画期間の10年を経過するため、現在その進捗状況や課題を整理し、新たな計画の策定に向け準備を進めています。
 また、2007 年には宮島沼の保全とワイズユースを進める拠点施設となる「宮島沼水鳥・湿地センター」が環境省によって整備され、昨年は開館3年目にして来館者10万人を記念することができました。
 センターは、宮島沼に関係する団体や機関によって組織される運営協議会を母体に、地元美唄市によって管理されていますが、調査研究、普及啓発、環境教育、地域づくりなどに関する多様な事業を、市民団体である「宮島沼の会」や地域の代表者が集まる「宮島沼プロジェクトチーム」と連携しながら展開しています。また、「北海道ラムサールネットワーク」や「ウェットランドリンクインターナショナル(WLI)」などを通じ、国内外のラムサールサイトとも連携を保っています。
 宮島沼における課題への具体的な取り組みとして、2007 年度から環境省による「国指定宮島沼鳥獣保護区保全事業」が始まり、観察者によるマガンへのストレスを軽減するため、宮島沼の湖岸への立ち入りを制限するゲートやバードウォッチングウォールが整備されました。
 また、事前に行われた調査からは、宮島沼の水面積が1973 年当時から2割ほど縮小し、周辺湖沼と比べて富栄養化の度合いも深刻だということがわかりました。さらに、底泥の堆積は年1センチの速度で進行しており、単純計算では50年後には宮島沼の水面が消失することも判明し、緊急を要する新たな課題が浮き彫りになりました。浅底化の一因には周辺農地からの土砂流入があげられるため、来年度から水路の流入口付近で沈砂池の整備を行う予定です。
 こうした宮島沼の水環境の悪化は、周辺農地からの土砂や栄養分の流入、また、周囲の乾田化に伴う地下水位の低下が深く影響しているため、その保全には周辺土地利用を含めた対策が不可欠です。
 そこで宮島沼水鳥・湿地センターでは、周辺土地利用を工夫することで宮島沼の水環境を改善することを目的に「ふゆみずたんぼ(冬期湛水水田)」の試みを始めました。周辺の田んぼを冬期間も湛水することで沼の乾燥化を防ぐことができないだろうか?富栄養化した宮島沼の水を田んぼにくみ上げ、田んぼを通して浄化できないだろうか?そんな単純な発想から始まったプロジェクトでしたが、少しずつ成果をあげることができています。
 宮島沼のふゆみずたんぼはまだ面積も小さく、田んぼオーナー制度によって維持されています。オーナー制度自体はとても面白い取り組みに発展しているのですが、今後面積を拡大していくためにはお米のブランディングや販路の拡大も不可欠と考え、「えぞの雁米(がんまい)」と銘打って販売を始めました。まだまだ認知度は低いのが現状ですが、化学合成肥料を一切使用していないためか「昔のお米の味がする」との評価も頂いています。

えぞの雁米と揚水風車

 昨年は、同じくラムサール湿地の保全のためふゆみずたんぼに取り組んでいる蕪栗沼と片野鴨池のお米とのセット販売も始めました。また、ふゆみずたんぼを市内小学校の体験学習の場とするなど、様々な方法で活用を試みています。
 一方、マガンによる小麦食害問題への対策としては、2010 年度から北海道空知総合振興局を主体とする「マガンと環境に配慮した農産物づくりの共生推進事業」が始まっています。その詳細については省略しますが、小麦畑からマガンを誘引する「代替採食地」の設置と効果の検証を中心に成果を残しつつあります。
 このように、宮島沼における課題の多くは地域農業と関わりが深いものですが、その関係性をうまく活かせば地域農業振興にもつながり、地域の持続的な取り組みとして宮島沼の自然環境を守り育むことも可能になると考えています。
 今後、宮島沼における試みが広がり、地域農業と一体化する形で流域全体の湖沼や水のネットワークが保全・再生されるようになれば、かつて流域に広がっていた国内最大の「石狩湿原」が、また新しい形で現代に再生されるのではないかと夢見ています。

(JAWAN通信 No.99 2011年3月31日発行から転載)

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