地球温暖化に向き合う

伊藤昌尚 日本湿地ネットワーク事務局長

今年の夏の記録的な猛暑

 今年2007年8月の気温は全国821観測地点の中、約1割にあたる107地点で過去最高気温が観測され記録的な猛暑となりました。誰しもこのような暑さが今年だけではなくこれからも続くと感じたのではないでしょうか。沖縄や高知沖でサンゴ礁の白化現象が起きていること、北極海の氷が30年後には消滅してしまう可能性、ヒマラヤの氷河融解が加速していること、海洋の酸性化の進行などが報道されました。私たちの周りでもキンモクセイの開花の遅れ、樹木の紅葉の遅れ、ナガサキアゲハチョウが見られる地域の増加などが伝えられ、気候変化が現実に進んでいることを感じさせました。

IPCC第4次評価報告書

 地球規模での温暖化に警鐘を鳴らしたのが気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告(2007年公表)です。IPCC第4次評価報告書は過去100年(1906〜2005)での地上平均気温の上昇が0.74℃であることを明らかにし、海面水位は20世紀中に17cm上昇したと見積もり、この地球温暖化は人為起源の温室効果ガスによってもたらされた可能性がかなり高いと報告しています。このまま人為的温室効果ガスの排出が続けば、地球の平均地表面温度は2100年までに工業化以前の水準から1.1〜6.4℃上昇し、洪水や干ばつが増え、1900年から2100年の間に海水面が18〜59cm上昇する。地球の平均気温が1.5〜2.5℃高まると約20〜30%の生物種が絶滅のリスクに直面する。多くの生態系の復元力は今世紀中に追いつけなくなる可能性が高いと報告しています。
このIPCC報告書は温暖化が私たちの予想をはるかに超えて進行し、顕在化しつつあることを科学的に疑う余地がないと事実上断定しています。まだ、研究が進んでいないとか、まだわかっていないことが多いという懐疑的意見は急速にしぼんでしまったように思われます。

生物多様性国家戦略案の危機意識

 国(環境省)は現在、第3次生物多様性国家戦略案を策定中です。
 戦略案(答申案)では「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という目標に向けて「国別の生物多様性総合評価」の実施を機に日本の生物多様性の現状や動向を評価すること、国・地域レベルでの目標設定と指標の開発への取り組みを掲げていることは前進と評価できます。第2部行動計画案に数値目標を新たに導入し、例えばラムサール条約湿地10カ所増のように目標数値を織り込んだことも画期的努力と評価できます。
 そして生物多様性の危機の構造として3つの危機(人間活動の危機、人間活動の縮小による危機、人間により持ち込まれたものによる危機)に加えて地球温暖化を第4の深刻な危機として取り上げています。地球温暖化は生物多様性の変化を通じて、人間生活や社会経済に大きな影響を及ぼすとの予測から適応策の推進を重要課題としています。しかし危機克服の具体策となると行動計画案は、従来の省庁の事業計画の列挙におおかた留まっているように見えます。温暖化を第4の深刻な危機として捉えるなら、生物多様性の予防原則に基づいて国家的戦略や政策を打ち出し国民の意識の転換を求めるべきです。手の打ちようがない事態が発生するところまで行ってからの後追い対策では手遅れになります。
 2010年は国連の「国際生物多様性年」にもあたります。日本には2010年の生物多様性条約COP10の招致国として、次期世界目標となる「ポスト2010年目標」に向けて国際的なリーダーシップの発揮を期待したいと思います。

2007年11月14日「地球の入り」
月周回衛星「かぐや」撮影 JAXA/NHK公表

地球温暖化に向き合う

 私たちは地球温暖化に向き合わなくてはならないと思います。
 いままで私たちの地球温暖化への危機意識はなぜか高くなかったように思いますが、それは人類が永続的に生存していることを前提に他の生物の生存や絶滅を論じていたことが多かったからではないでしょうか。人間は自らが絶滅危惧種になる可能性を感じることができないで過ごしてきたのです。しかし最近の天候の異常さはみんなが身近に感じることができ、地球温暖化は人類の危機の顕在化として理解できることに大きな転機があるように思います。
 温暖化緩和策として「低炭素社会」の実現に国民意識の変革と経済社会制度の変革を行うことが急務です。私たちの家庭でも二酸化炭素を年間4トン〜6トン位は排出していると言われています。家庭や個人も「低炭素社会」の実現に向けて生活様式を転換し、温暖化ガスの削減を図ることが求められます。しかし政府と経済界の責任・役割は格段に重いのです。福田総理は国会答弁で温暖化について「待ったなしの状況」と答えていますが、早急に政府主導による国家目標としての中長期の政策目標を示すべきです。
 加藤三郎氏(環境文明21共同代表)は市場メカニズムとして排出量に対する規制措置、環境税・炭素税などの税制の取り組み、排出権取引制度の3つを欠かせない政策手段として挙げています。
 日本は環境先進国として温暖化の防止に取り組んでいく責務が強調される一方、国際的には環境保全重視の先進国と開発の権利を優先する途上国との対立に巻き込まれ、国内では経団連など経済界の一部の反対意見にあって強力な緩和策が進んでいないようです。

賢明な利用(ワイズユース)と地球温暖化

 生物多様性・地球温暖化関連の国際会議は、2008年7月の北海道洞爺湖サミットや2010年の生物多様性条約COP10(愛知県)を前にして目白押しです。また来年10月〜11月にはラムサール条約COP10が韓国・慶尚南道の昌原(チャンウォン)市で開催されます。釧路会議以来15年ぶりに東アジアでの開催となり、東アジア地域における湿地保全の取り組みを推進する絶好の機会となります。
 地球温暖化は地球規模の環境問題であり、ラムサール条約が目指すあらゆる湿地や湿地生態系の保全に重大な影響を与えずにはおきません。人間が生態系から受ける恩恵は生態系サービスとも呼ばれますが、地球温暖化を解決するための努力をしなければ、将来世代が得る自然の恵みは大幅に減少することになります。
 ラムサール条約は湿地保全を促進の有効な手段としてコミュニケーション・教育・普及啓発活動(CEPA)を重視しています。CEPAは湿地の保全に関わるNGOや関係者の輪を広げていく手段として大きな役割を果たせるからです。私たちの暮らしの豊かさを支えている自然の恵みを将来の世代に引き継ぐことができるのかどうかは、賢明な利用(ワイズユース)或いは持続可能な利用の実践にかかっています。21世紀は自然の恵みに敬意をはらう人類の叡智が試される世紀と受けとめたい。

(JAWAN通信 No.89 2007年12月15日発行から転載)


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