「三番瀬再生事業」は従来型公共事業へ逆流も
―「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」に関連して―

今関一夫 三番瀬を守る署名ネットワーク幹事

  三番瀬は、1960年代から千葉県が埋立事業を進めていましたが、1972年ごろから埋立反対運動が起こり、堂本知事が誕生して、2001年に埋立計画を白紙撤回しました。これで、「三番瀬は、残った。」と安堵したものでした。
 その後、千葉県は、今後の三番瀬再生のあり方を検討し、「三番瀬再生事業」を進めるために、2002年に「三番瀬再生計画検討委員会」を設置し、2004年に「三番瀬再生会議」に改組して現在「三番瀬再生計画」の検討及び「三番瀬再生事業」を進めています。
 千葉県は、今年になって「三番瀬再生会議」の決定(答申)前に「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の護岸1,700mのうち100mの工事を開始し、その他の「事業計画」を年度内にも決定しようとしています。
 この間、千葉県は、「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の強行、人工干潟の造成試験計画、ラムサール条約登録の先延ばし、東京第2湾岸道路計画の推進、「三番瀬再生会議」委員のうち環境保護団体3委員の再任について、事前の打診なしに突然「推薦」から「公募」に変更するなど進めています。このままでは、これらの「事業」は、「再生事業」どころか従来型の公共事業へ逆流しかねないという状況にあると、市民の間で危惧が高まっています。

入り口(左)と海(右)から見た市川塩浜護岸改修工事(2006年10月)撮影:伊藤恵子

 ここでは、「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」について、考えてみたいと思います。
 千葉県がいま進めている「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の問題点と今後の方向は、次のとおりです。

1.三番瀬再生の目標(「基本計画案」)

 「三番瀬再生会議」は、三番瀬の再生事業を進めるため、次のとおり「目標」を決定(答申)しています。
(1)生物多様性の回復  
(2)環境の持続性及び回復力の確保
(3)海と陸との連続性の回復(「現在残っている干潟・浅海域は保全するという原則」を含む)
(4)漁場の生産力の回復 
(5)人と自然とのふれあいの確保 
(6)海域をこれ以上狭めない原則

2.「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の概要

 「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」は、2002年5月ごろから「市川海岸塩浜地区護岸検討委員会」や「三番瀬再生会議」などで検討されてきましたが、千葉県は、護岸の老朽化による危険のため工事を急ぐとして「三番瀬再生会議」の決定(答申)を得ずに、2006年4月に着工しました。「市川海岸塩浜地区護岸改修事業計画」の概要は、次のとおりです(上図を参照)。
 市川市塩浜2丁目に所在する直立護岸の海側へ21.49m張り出し、1:3の傾斜護岸を築造する。全長1,700m、5カ年で900m、2006年度 100m〔内訳―「完成型」20m、仮設(捨石の埋め込み)80m〕、工期 本年4〜11月、傾斜護岸完成後にその海側へ人工干潟(干出域の形成)を追加する。


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3.「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の問題点

「市川海岸塩浜地区護岸改修事業計画」には、前記1.の「目標」等からみて、次のような問題点があります。これらの問題点は、「市川海岸塩浜地区護岸検討委員会」「再生会議」及び市民の公募意見でも指摘されていましたが、工事を急ぐ等で十分に検討されなかったことです。
(1)「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」は、前記1.の「目標」のうち(3)「海と陸との連続性の回復」を実現するとして位置付けられていますが、他の「目標」について十分検討していないためにそれらの「目標」には、ほとんど寄与しないものとなっています。例えば、直立護岸を傾斜護岸にするにしても、また傾斜護岸の底にマガキ群等が埋め込まれたりして、「環境の持続性の確保」等の「目標」には、ほとんど寄与していません。
(2)護岸沿いの海域では、傾斜護岸が海側へ張り出し、さらに人工干潟の追加によりその分(21.49m×1,700m=36,533m2+α)の海域をせばめることになり、前記1.の「目標」「(6)海域をこれ以上狭めない」に相反します。
(3)「市川海岸塩浜地区護岸改修事業計画」には、「〜生態系にも配慮した高潮防護の護岸改修を進めます。」となっていますが、直立護岸沿いに生息していたマガキ群とウネナシトマヤガイ(絶滅危惧種)等多数の生物は、護岸用捨石の埋め込みにより捨石の下で死滅させられ、護岸完成後の復元が見込まれていません。「改修工事」の実行上では、何ら生態系に配慮されていないのです。
(4)「環境予測」では、「改修工事によって、潮間帯の面積が増大し、マガキ礁とウネナシトマヤガイは再定着する。」とされています。直立護岸から傾斜護岸へ「潮間帯の面積が増大」しても、「再定着」はここでは未知数であり、工事前後の生物の種類・数量の変化で「環境の持続」等が明らかに復元されることが判明しない限り、「環境の持続及び回復力の確保」等の「目標」が達成されたとはいえません。

4.順応的管理による「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の手直し

 「再生事業」の順応的管理は、「〜自然の回復力を人間がサポートするという考え方に基づいて、再生の目標に向かって少しずつ手を加えながら、自然がどのように変化するかを十分に観察・記録し、そのつど検討を加えながら計画を手直しする順応的管理の原則に立って三番瀬の自然再生に取り組みます。」と「三番瀬再生会議」で決定(答申)されています。
 「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」は、前記3.のとおり問題点があるので、「〜そのつど検討
を加えながら計画を手直しする〜」には、「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」の「完成型」工事終了時を「そのつど」のひとつとして、モニタリングの結果による「評価」をおこない、次年度以降における「市川海岸塩浜地区護岸改修事業」継続の適否を調査・検討・判断することが必要であると考えます。

(JAWAN通信 No.86 2006年11月25日発行から転載)